マヒロ

鏡の中の女のマヒロのレビュー・感想・評価

鏡の中の女(1975年製作の映画)
3.5
(2024.17)
精神科医のエニー(リヴ・ウルマン)は、夫と娘が仕事や行事で不在の中で、引越しの準備のために祖父母の家に身を寄せることになる。そんな中、ある事件に巻き込まれたことをきっかけに精神のバランスを崩したエニーは徐々に様子がおかしくなっていく……というお話。

ベルイマンお得意の精神不安を抱える主人公についての作品で、家族との不和や老いへの恐怖、性愛に関する悩みに過去のトラウマなど、様々な心の歪みが一人の女性を狂わせていく様を描いている。普通だったら拠り所になりそうな一番近しい家族という存在がとことん希薄に映されており、一人きりで狂気の坩堝に飲み込まれていくかのような絶望が描かれており、リヴ・ウルマンの熱演も相まってなかなか怖い。
不意に映るはずの無いものが映り込むような悪夢的描写も冴え渡っており、特に電話中に突然あるものが現れるシーンには普通にキモが冷やされた。狂気が怪異として現れるのは『野いちご』とか『狼の時刻』っぽさもあるが、怪奇映画的だったそれらと違い、より現代のホラーに近い幽霊のような感覚がある。

ほぼリヴ・ウルマンの一人舞台という感じで、他の登場人物はほぼ添え物に過ぎないレベルの存在感。一人の人間の精神世界を深掘りしていくという面白さもありつつ、世界観が広がっていかない物足りなさも感じてしまった。
ところで原題は「面と向かう」という意味で、邦題の『鏡の中の女』は独自に付けられたものみたいなんだけど、同じベルイマンの『鏡の中にあるごとく』と若干被ってるのがややこしい。内容が似ているわけでもないのになんで「鏡の中」という単語をまた使ったんだろう……。
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