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アンダー・ザ・スキン 〜ライム病との戦い〜のRのレビュー・感想・評価

4.5
アメリカの郊外で1970年代後半から流行し始め、毎年何十万もの人が感染してるライム病にまつわる事情を追ったドキュメンタリーで、まず序盤でライム病がどんな病気であるかをしっかり教えてくれる。ダニが口を人間に差し込んでチューチュー血を吸ってる間に、ダニの中に寄生するボレリアというスピロヘータが人体に侵入。血管を通って体の各所に運ばれ、螺旋状の体をくるくるねじってあらゆるところに入り込んでいく。感染者は、激しい倦怠感、頭痛、麻痺、痙攣、呼吸困難、神経痛、知覚障害、精神錯乱などありとあらゆる神経系の不調が起こり、たちまち立てなくなったり、喋れなくなったりして、やがて死に至る。その様子は見てて心が痛むくらいしんどそうなのだが、患者たちが何度も何度もいろんな医者に行くたびに、いやー、特に心配することないですよー、すぐ治りますよー。精神的なものですよ、精神科医に診てもらったら?みたいな感じでまともに取り合ってくれない。てか、しんどそうにして注目を浴びたいだけでしょ、とほざく医師までいる。体調おかし過ぎるの一目瞭然なのに、なぜそんな状況になってしまってるのかを明らかにしていくねんけど、だんだんと、ライム病に関する公式なガイドラインを作成してる十数人の医師たちが、保険会社と強い結びつきがあり、ライム病はすぐ治る病気で慢性化することはないと規定することで、治療費の保険料を早く打ち切れるようなシステムになってることが明らかになってくる。けど患者自身は明らかに慢性化してるしぜんぜん治ってない! その一方で、そんなおかしい状態を打破しようと日々研究を積み重ねてる医学者たちもいる。また、ライム病を引き起こすボレリアは梅毒トレポネーマというスピロヘータの親戚にあたり、抗生物質が効くので、ガイドラインに反してそれを与え続け、患者をどんどん回復させている医師たちもいる。だが彼らは正規の治療でないことをやってるってことで医師免許を剥奪されるおそれがあり、実際何人も剥奪されてて、ある医師などは不当な治療で保険料を払わせたことで保険会社に連絡1億ドルの賠償を求めて起訴され、クリニックも建物も売って何もかも失ったそう。で、そんなこんなで治療できる医師が減り、多くの人々が効果的な治療を受けられないまま悪化して死んでいく。恐ろしいことだ。ひどすぎてしまいには涙出てくる。けど、熱心な善意ある医師がいるってのはホントに救いやし、ライム病の慢性化をバイオフィルムという作用から証明できた学者とかもいて、本作公開の2007年以降、一体この問題がどう展開したのか気になるところ。出演してる患者さんはみんなまだ生きてるのだろうか。小さい子が、数年でボクはノーマルじゃなくなることが怖いと言って泣いてた。こんな姿を見て、まだ儲けの方が大事だって思える医師や保険会社員がいるのが不思議でしょうがない。何ちゅう人間や。本作は、医療のシステム存在する大きな問題を告発し、人々の意識を向けさせる、大変に意義深い映画だと思う。日本でもいつ何時こんなことが起こらないとも限らない。ちなみにライム病は日本にも存在し、気候変動で今後増加する可能性があるらしい。気をつけないといけない。山や森には軽い気持ちで行かないのが一番。しっかし、大いなる金が関わると人間はどれだけ非人間的なことだって平気でできてしまう、恐ろしいことだ。
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