ジェイコブ

仁義の墓場のジェイコブのレビュー・感想・評価

仁義の墓場(1975年製作の映画)
4.2
復興へと歩みを進める戦後の日本。東京の新宿を根城にする「河田組」の構成員石川力夫は、その血気盛んな性格から問題ばかりを起こし、組長の河田も手を焼いていた。ある日、石川は兄弟分の今井とともに、東京で幅を利かせていた「山東会」の賭場を襲撃し、金を奪う。山東会に手を焼いていた警察からは密かに感謝され、気を良くした今井は石川に河田組を出て自分の組を持つようにすすめる。そんな中、石川は池袋を根城にする親和会との間で新たな火種を作ってしまい、河田の怒りを買ってしまう……。
深作欣二監督作品。仁義なき戦いの企画当初、広能昌三役として考えられていたと言われる渡哲也が、実在の関東ヤクザ石川力夫を演じている。広能昌三が仁義を貫く男とすれば、石川力夫は、空中を漂いいつ爆ぜるか分からない予測不能な風船のような男だろう。彼は敵のヤクザだけでなく、世話になった身内のヤクザすらも殺してしまう。そんな彼が自分の墓に「仁義」と彫った真意については謎とされているが、彼なりに世の中と共に変わってしまったヤクザ社会への皮肉が込められているように思う。
かつての親分であった河田は、アメリカ兵の顔色ばかり伺い、ヤクザ、日本人としての誇りは微塵も感じられない。日本人の誇りのために立ち上がり、共に山東会に一泡吹かせた今井は、自分の組を持った途端に、面子や体裁ばかりを気にする弱腰になった。石川からすれば、河田や今井は「建前としての仁義」を語っているに過ぎず、本音は己の保身を大事にしたいだけに見えたのだろう。それを表すかのように、石川は今井の言いつけを破り、一年で東京に戻ったのは、彼が今も変わらず兄弟のために立ち上がる男気があるかを試したようにも見て取れた。石川がその後今井を殺したのも、変わってしまった彼の姿に我慢ならなかったからではないか……と思う。まあシャブ中だったし、そこまでの考えで動いていたかは憶測でしかないのだが。
石川力夫は、言ってみれば不良少年のまま大人になってしまったようにも思えるし、辞世の句も、破滅型の彼なりに考えた、最期の洒落なのだろう。