喜連川風連

仁義の墓場の喜連川風連のレビュー・感想・評価

仁義の墓場(1975年製作の映画)
4.6
大傑作。

人、ホン、撮影、編集神がかり的出来栄え。

無法者、石川。
これを渡哲也が怪演。
これまでの任侠映画にあった「仁義」を全て打ち壊す。

ドキュメンタリー映画のように彼の生前の様子を語る序盤から一気に物語は繰り広げられる。

戦後の混乱期を描くことのできた最後の時代だったのかもしれない。

小説「メトロに乗って」で描写されたように壊れてもない革靴の裏を無理矢理修理して、お代を頂いたり、新宿闇市の縄張りが精細に描写される。

差し込まれる回想シーンでは退廃的な白黒映像で進み、虚無感が漂う。

暇さえあれば、男はタバコをくゆらせ、七輪に手を当てる。
生きている映像がそこにある。

ヤクザ社会で絶対のタブーとされる自分の親分を切りつけ、関東を追い出される。
その後、金から食事まで何一つ不自由なく面倒を見てくれた兄弟分(今井幸三郎)を殺し・・・強姦で手にした若く奇麗な妻までも、嘆き苦しませ自殺に追いやった。

自分自身は、ヤク物(ヒロポン)中毒になり、顔から血の気は引き、目だけはギラギラに血走っている。

そして念仏のBGMとともに、ひたひたと死は彼に近づき、妻の墓石とともに日本刀でぶった斬られる。
近くにあった赤い風船のヒモが切られ、空を駆ける。

あれは妻との「子ども」の暗示だったのかもしれない。

死んだ妻の骨を食べながら、切りつけた親分にカネを出せと言うそれはまさに狂気以外の何ものでもない。
戦慄した。

そんな彼が残した辞世の句
「大笑い三〇年の馬鹿騒ぎ」

墓標には刻まれた文字は
「仁義」

あらゆる欲望が虚無と化す、圧倒的筆致。
名作中の名作。
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