カタパルトスープレックス

影の列車のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

影の列車(1997年製作の映画)
3.8
ホセ・ルイス・ゲリン監督が映像作家として作家性を遺憾なく発揮した(と言われる)作品です。

前作『イニスフリー』ではジョン・フォード監督作品の『静かなる男』と現在をマッシュアップしました。本作では架空の映画と現在をマッシュアップしました。前回はアイルランドのイニスフリー(コング村)でしたが、今回の舞台はフランスのル・トュイです。過去の映像と現在の映像の比較で語るストーリー。セリフではなく、映像に語らせる。セリフがほぼない分、観る側の想像力がかき立てられます。そこはうまい!

本作における架空の映画は弁護士フルーリ家が残した家族映画。保存状態が非常に悪く、かなり劣化していたが、それをなんとかレストアした(という設定)。この「劣化した映像」が素晴らしい。今でもたまに見られる手法ですが、本作はその最高峰です。

現在のル・トュイとフルーリ邸の映像的特徴は自然のフィルターです。朝霧や窓についた雨の滴など。そこに過去の映像を重ねてくる。そこからストーリーが生まれてきます。夫婦の関係、そして夫とメイドの関係。ただ、現在のル・トュイの映像は少し古臭さを感じてしまいました。ああ、昔こういう「キレイな映像」が流行ったよなーって感じ。過去の「劣化した映像」より現在の「キレイな映像」の方が古臭いという皮肉。だって、環境ビデオ風なんだもん。昔のミュージックビデオ風と言ってもいい。そこがとても残念です。