YasujiOshiba

アニタと子猫と…のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

アニタと子猫と…(1979年製作の映画)
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DVD(United American Video)。23-40. 英語版、字幕なし、特典なし。画質はまあまあ。耐えられないほどではない。他に選択肢なし。

アマゾンの購入履歴を見るとなんと2011年2月とある。3・11の前に届いていたんだな。そのまま12年も積読だったとは。いろいろあったけど、ようやく見ることができたのが感慨深い。

作品も悪くない。原案は、フェデリーコ・フェリーニが映画化を考えていて実現しなかった『アニータとの旅』(Viaggio con Anita)で、イタリア語タイトルも同じ。1957年にフェリーニとトゥッリオ・ピネッリが執筆し、ピエル=パオロ・パゾリーニの協力もあったという。その前年、父の死に際してフェリーニがリミニに帰ったときの旅が題材だ。

フェリーニが映画化を企画しながら実現しなかった、『マストルナの旅』と『トウルンへの旅』と合わせて、旅の三部作のひとつ。イタリア版のウィキペディアには、フェリーニの言葉が引用されている。

「この映画原案は、自分が書いた中でも一番だろう。結局は実現はしなかったけれど、『アニータとの旅』というのがタイトルだ。何年かたってから、恥ずかしながら、グリマルディに権利を売ってしまった。それをモニチェッリが映画化することになったんだが、全然別のものになってしまった。後悔があるとすれば、その映画を自分で撮らなかったことだ」
(https://it.wikipedia.org/wiki/Viaggio_con_Anita)

フェリーニは「全然別のもの」だと悔やんでいるし、モニチェッリが撮った映画は、独特のアイロニーのドタバタ喜劇として、それなりにドライブ感がある。もちろんフェリーニ風の映像からはずいぶん遠いけれど、それはそれで捨てたものじゃない。

なにしろゴールデン・ホーンがよい。僕にとっては『シュガーランド・エクスプレス(邦題:続・激突カージャック)』(1974)のルー・ジーン。ホーンがここではルー・ジーンそのままのアメリカ娘。それはもちろん、フェリーニに登場する「永遠の女性」とは少しばかり違う。それでも、トレビの泉でのビンタの応酬のシーンは、モニチェッリ流の女性という「自然なままの絶対性」のアイロニカルな描き方なのだろう。

そのホーンとジャンカルロ・ジャンニーニのラブシーンがよい。よいの絵というよりも、交わるふたりにかぶさるモリコーネの音楽。ウッドベースの心地よく深い弦の響きが、いまこの瞬間の快感を伝えてくれる。こんなベッドシーンは見たことも聞いたこともない。すごいベットシーンとしてすぐに思い出せるのは、オルミの『ジョヴァンニ』(2001年)とかスコラの『特別な1日』(1977)だけど、モニチェッリ&モリコーネのこのラブシーンも覚えておこう。

その音楽はここで聴ける。ベッドシーンのウッドベースに加えて、モリコーネのトランペットナンバーもすばらしい。ロータのトランペットにはさすがに負けるけれど、フェリーニ&ロータは怪物クラスだからな。比べちゃだめだよね。
https://www.youtube.com/watch?v=EwIDplSE2Xg

残念ながら、イタリア版ではなく英語版しか出ていない。日本では劇場未公開でテレビスルーみたいね。「アニタと子猫と...」というのは、そのときのタイトルなのかな。

追記:

冒頭だけ登場したジェニファー役のロレイン・デ・セッラがよい。ジャンル女優さんだけど、その後は映画プロデューサーにもなって活躍。どことなくエヴァ・グリーンを思わせる美女。

それからラウラ・ベッティも楽しそうに登場。ホテルの受付なのだけど、ゴーディ・ホーンのアニータを誘って映画にゆくんだよね。なんかゆるくてよい。
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