垂直落下式サミング

風林火山の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

風林火山(1969年製作の映画)
4.2
「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり」

武田信玄の有名な詩。おばあちゃんが書道の先生やってたので、難しい漢詩とかいろいろ知ってたんだけど、これが好きでよく書いてた。
要するに人材は環境と同じくらい重要だから大事にしなさいみたいなことだろうから、ビジネス帝王学系の本でも格言として引用されてそうな感じのやつなんだろう。知らんけどな。
僕はバカだったので、「風林火山!」がいちばん好きな言葉です。今でも。人生の教訓みたいな気のきいたやつよりも、カッコいいが優先に決まってるじゃないですか。(アース・ウィンド・アンド・ファイヤー!)
NHKの大河ドラマも大好きだった。戦国の世の夫婦愛を描いた『功名が辻』のあとに、ゴリゴリの軍記ものがきたからギャップに面食らってしまったけど、ドライで殺伐とした感じが素敵でした。
甲斐の虎・武田信玄の生い立ちは、けっこうヤバめだ。まず、生まれた武田家は世継ぎ争いで親兄弟の殺し合いが絶えない状況なのに、幼い頃から病気がちで身体が弱く生まれたために、両親に愛されなかった。
そんで、魔境・甲斐の国という土地柄である。よく河川が氾濫してて、作物が育て難くて、疫病が蔓延してる。ハードコアな世界観。そんな修羅の国に生まれたんだから、「人は城~」はただ単に強がりだったんじゃねえのかとも思ってしまう。間違っても、環境に恵まれていた武将ではない。
映画では、武田信玄役は中村錦之助。ひげ面コワモテの肖像画のイメージが強いけど、大将同士の直接対決があったとされる第四次川中島のときは三十代半ばなので、このくらいの年齢で正しい。ちなみに上杉謙信は裕次郎。越後の竜はもっと若い!まだまだ新人の緒形拳は、本作でしっかりと死に様を磨いている。
三時間近くあるので、のっぺりしている部分も多いけど、合戦シーンは迫力がある。大河ドラマの題材になるようなはなしを二時間半で駆け抜けるスピード感。撮影監督は山田一夫!おお、かっこいい!生首もリアルじゃ。
山本勘助の戦闘は、グフの肩みたいな兜を手に持って戦うのが素敵でしたが、なんかミフネの勘助役はあんま似合ってない気がした。山本勘助を演じるのに、傷の場所を額にしちゃうのはカッコ悪いと思う。日本の演芸は目で語る文化だからと、大御所に気を遣って、傷痕や眼帯で顔を隠さないようにしたのかな…。要らぬ気遣いよ。中途半端に配慮したせいでダサいことになってるのは、ミフネ的にもおいしくない。
川中島の合戦は、勘助をはじめとする侍頭たちが死ぬところがかっこいいんじゃないですか。滅びの美学!敗戦国ならではの向う傷かっこいい文学。その美意識に抗ってはいけません。男の子は傷が大好きで、あこがれなんですから!
この映画をみたあとに、長野市立博物館と川中島古戦場跡公園にいきました。次の日は諏訪湖のへんに泊まったので、もう信州マスター。最近わくわくしてなかったので、ひさしぶりの旅行ではしゃいでしまった。ちょー楽しかったです。ウキウキでした。