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ドアをノックするのは誰?のToineの感想文のレビュー・感想・評価

ドアをノックするのは誰?(1968年製作の映画)
3.8
【既にスコセッシ映画として完成された作品】
「タクシードライバー(1976)」や「シャッターアイランド(2009)」の生ける伝説マーティン・スコセッシ監督の長編デビュー作品(しかも大学の卒業製作!)
メイキングで監督ご自身がこちらの作品を「失敗の見本市」と仰っていますがまったくそんな事はなく、初の長編とは思えないセンスと技術の塊でした。
スコセッシ監督ってすごく謙虚な方なんですね。

一見退屈な若気の至りの物語も個性的で丁寧なカメラワークと編集のお陰で飽きることなく鑑賞できました。
主演の若い頃のハーヴェイ・カイテルさん演技も上手いしかっこ良い!
開始からすぐに始まる暴力シーンもイタリア系マフィア達の粗暴な日常も大嫌いだけど最高です。

特に作品が完成した4年後に追加された主人公J.R.さんが色々な娼婦と致す場面(41:50くらいから始まります)のカメラワークが神がかってました。
劇伴も大好きなドアーズの"The End"だったので胸の鼓動がぶち上がりました。
モノクロの映像と回転するカメラとサイケデリックロックの相性の良さといったら!
そのままドアーズの公式MVにして欲しいです。
音楽の使い方が流石すぎます。

処女厨すぎるJ.R.さんのことを信用し気を利かせたからこそ彼女は乱暴された過去を告白してくれたのに。彼には受け入れる器が無かった…にしても彼女に返す言葉があれってデリカシーなさすぎる。
カトリックの教えとか育った環境、男女の考え方の違い、あと若さなどの影響があって彼に悪気が無いのは伝わったけど。彼は根は悪い人じゃないんだけどさ…彼女には貞淑潔癖を求めておいて自分は酒に煙草に娼婦を取っかえ引っかえ。で、無理矢理レイプされた彼女を娼婦扱いって、ずいぶん上から目線だし恋愛に上下関係を持ち込むなと思いました。

彼女が彼との結婚を断れる意思の強い人で良かったです。言葉足らずな彼女の言った通り大好きでたまらなくてもお互いに尊重しあえる関係じゃないのなら一緒に人生を歩むことなんて出来ないでしょ。
(私が彼女の立場だったらJ.R.さんを絞め56す!!!)

だけど個人的に唯一救いがあるなと感じたのは別れた後も間違いなく彼は彼女を愛してるところ。
最後に教会で彼が唇から流した血は修復できない彼女との溝。彼の心の傷のメタファー。
彼は誰かを愛すことが出来る人。そこだけは本物だった。