荒戸監督『赤目四十八瀧心中未遂』は15-6年程前に観た。
きっかけは原作の車谷長吉の熱い読者だったからでもある。『金輪際』『漂流物』と短編集を読み、虜となってから長編の『赤目四十八瀧〜』を読んだ。
さて、本作品の"匂い"…
"臭い"と書いた方が良いかも知れない位の"匂い"は、何なのだろうか…
或る底辺に蠢き、静かにもがきながら生きる人々を描きながら。
うだる夏の強い陽射しによって出来た寧ろ濃い陽陰。
揮発し、漂いながら、観る者に目眩を与えてくるかの様だ。
場末の路地。
自らを売った過去。
大切な人の喪失。
興味ではなく抗えない黒く紅い道への選択。
取り残された中にたしかに感じてしまう或る安堵。
証明書類や肩書き等無く、在るのは自らの身一つと何か…
その何かは人により辞書であり、針であり、ワンピースであり、夕顔の鉢植えであり、人形でもあろうか…
落ちた場所でもがいた経験や、運命の罠に導かれる様に流れてしまった覚えが有る者は、観て唸るだろう。
"この匂い知ってるわ…"と。