荒野の狼

赤目四十八瀧心中未遂の荒野の狼のレビュー・感想・評価

赤目四十八瀧心中未遂(2003年製作の映画)
4.0
私は、2022年に三重県名張市の赤目四十八滝を訪れたが、同地がロケ先と知り、本作を視聴した。同地では、本作が舞台であるにも関わらず、現地では原作も映画も、2022年の訪問時には紹介されていなかった。映画では冒頭と最終版に赤目四十八滝は登場。現地はオオサンショウウオの生息地としても有名だが、本作ではオオサンショウウオについては触れられていない。ハイキングコース中に複数の滝が存在するが、見学場所から投身するような場所はなく、自殺の場所には不適当。主人公たちは赤目四十八滝にははじめて行った設定なのでOKではあるが、訪れた経験のある人なら、この場所は自殺の場所には選ばないだろう。このハイキングコースは、距離が長く、険しい場所もあるので、本作では寺島しのぶがハイヒールで、大西滝次郎が下駄で歩き回っているが、撮影は大変だったのではないかと思われる。本作では滝の美しさの他に、現地では見られない夜の様子(花火や灯篭が流される)が映されている(滝のハイキングコースは夜は閉鎖される)。同地は「日本の貴重なコケの森」にも選ばれており、充実した苔ツアーもあるが、本作でも岩肌にはえたコケが滝にマッチしており美しい。なお、物語の大部分は兵庫県の尼崎が舞台で、後半に大阪の天王寺駅、天王寺動物園と四天王寺が舞台となるが、この部分は、ヤクザ絡みの暗いシーンが多いので、あまり「聖地巡礼」に訪れたいと思わせるような効果はない。
映画は、車谷長吉原作で直木賞受賞の映画化で2003年に公開。社会の底辺の人物の日常生活を描く159分の暗い内容だが、飽きずに見られるのは、寺島しのぶの存在。寺島はヤクザの兄を持ち、刺青の彫物師である不気味な金髪の老人内田裕也と暮らしている設定で、変人ばかりがいる近所に溶け込んでいるのだが、彼女の登場シーンは華やぐ存在感。(原作者の車谷自身の前半生を彷彿させる)主人公の大西滝次郎をして、ハスのようだと表現されるが、泥水をすすって生きてきた寺島がピュアであり続ける姿は、仏教で「ハスは泥より出でて泥に染まらず」。イメージシーンとして、ジャケットにもなっている滝壺に仰向けに寺島が漂うものがあるが、これはハムレットのオフィーリアをミレーが描いた絵画を思わせるような出来になっている。
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