レオピン

金環蝕のレオピンのレビュー・感想・評価

金環蝕(1975年製作の映画)
4.2
面白ーい
山本薩夫監督の映画らしく登場人物がやたらと多いが、みんな見せ場があって輝いている。役者に生き生きと演じさせるというのがこの人の才能だな。

札束の舞った党総裁選。ダム建設をめぐる大型談合。政界へのリベート。委員会で追及する代議士。口ききを裏付ける総理夫人の名刺、裏で蠢く金融王、周りで起きる秘書官や新聞記者の怪死事件。。。

ラストは告発調で終わるんでもなく、つきはなし系。さ あなたはこの世界にいますよ この話の延長線に間違いなく生きているんですよと言っている。しびれる

だがこの作品はそこで終わらない。当時の人はみんな知ってたろうが、これぜーんぶ実話なんです。なにー!
映画で描かれたことは誇張でもなんでもなくむしろ抑え気味。ほぼ全ての登場人物に実在のモデルがいます。そういう意味で二度三度楽しめる映画なのよ。田中角栄のモデルの幹事長(中谷一郎)だって出てくるがまだかわいい方。当時の自民党重鎮たちがゴロゴロ出てきます。

序盤は謎の金融王・石原参吉が手下を使って情報を集める。宇野重吉(ルビーの指輪パパ)が入れ歯をはめての怪演。主役が入れ歯って韓国の『シンソッキ・ブルース』ってのもあったな。
ターゲットは新内閣の官房長官・星野康雄(仲代)。コンビネーションの革靴をきめる伊達者。電源開発のダム工事に絡む収賄汚職。贈賄側の大手ゼネコン専務の西村晃は官房長官とつながり邪魔な現総裁を追い落として談合入札を図る。

悪い奴ほど表と裏の顔をきちんと使い分け、身なりよく己の欲望に忠実だ。金・権力・女
題名どおり出てくる連中はみんな真っ黒。紳士面してやってることは日々、おっぱいもんでゴルフして サウナに行っては悪巧み 芸者ホステスの尻を撫で 国家を憂いて袖の下 笑

もう中盤まででお腹いっぱいだがあの男がまだ残っていた。政界の爆弾男・神谷直吉。三國連太郎が突然やる気になって委員会で追及するクライマックス。それまで汚い姿しか知らない彼が一転希望の星となる。ダーティーヒーローが掻き回す国会質問、これが滅法面白いんよ。

電源開発の財部総裁に永井智雄。千鳥足が百点、加藤茶を超える。
副総裁の神山繁と新総裁の内藤武敏は気が合うようだ。髪型まで。

犠牲になった秘書官の西尾(山本学)と独立新聞記者の古垣(高橋悦史)。この二人の死も実話か。極め付けは「あのでしゃばり女に何度泣かされたことか」と出てくる現総理の女房。演じたのは京マチ子。陰で泣かされる役人。あのオーラには勝てない。

キレイめ加藤嘉の検事総長とクセメン大滝秀治の法務大臣の冷酷な会話。
病に倒れる寺田総理(久米明)、後継の酒井総理(神田隆)といった派閥のドンたち。それぞれ池田佐藤にそっくり。

衆院委員長の嵯峨善兵の本物感がすごい。◯◯君という声のトーン 間 完璧。 
寺田派の議員が専務にあいさつにくるが、その中に大平首相がモデルと思われる人。あーうー ま そのーなんていうかそのー って会話になってない。放送事故レベルの芝居に笑わされた。

参吉一家のステキな面々も
中村玉緒のほか、かつ江(長谷川待子)、加代子(大塚道子)と3人の妾を囲っている。(三國は24人らしい) 情報屋の吉田義夫、社員の矢野宣と早川雄三のコンビも
大映の作品は役者もいいがセットもいい。きちんと広さがあって映画を観た感がある。
電源開発の会議室とか大臣執務室とか料亭の広間とかも日本映画の狭苦しさがないのがいい。

まぁ何事も綺麗ごとだけじゃすまない。見かけなどどうでもいい。戦争を知っている世代の本質をガっとつかみにいく姿勢。宴席で鼻に綿を入れて踊る西村晃や出頭する前のハミちんふんどし姿の宇野重吉のストップモーションにグッときてしまう。ズルむけの人は強いんよ。

汚ないのは政治家だけじゃない。大手新聞記者の前武・瑞穂コンビがいたが彼らだって分かっているのに書かない。みなお仲間。そういうもんさってことでインナーサークルで事を進めていく。むしろはみだし者に冷淡。ネットが出てきてもこういう所が何も変わりゃしないのよ。ザッツジャパン でも政治を志す若い人には一度は見ておいて欲しい。「エルピス」好きな人にもおすすめです。


⇒三國連太郎のモデルの田中彰治。マッチポンプ議員。この人物はすごい。本質的には詐欺師だ。この手の人間が国会議員になれてしまったという時代。やってることはゆすりたかり。同郷の角さんが最も苦手としていたとか。同じ匂いを感じたのか。河野派所属。黒い霧事件で失脚。

⇒石原参吉のモデルは森脇将光。戦後すぐの長者番付にのるぐらいの金融王。テレビばかり見ている女中に電気代が高いと文句を言う。名刺を米つぶではっていたり。そうとうな吝嗇家なんだろう。劇中でも石原メモというのが唐突に示されるが、これも森脇メモというのがあった。1954年、佐藤栄作の逮捕寸前までいった造船疑獄の端緒はこの人だった。寸手の所で犬飼法相の指揮権発動で落着したが当時の政財界を揺るがした大事件。
レオピン

レオピン