伊達巻

不安が不安の伊達巻のレビュー・感想・評価

不安が不安(1975年製作の映画)
4.2
主婦する傍ら執筆活動を行なって生活していたアスタ・シャイプから送られてきた原稿を基にファスビンダーが脚本を書き上げて制作したテレビ用映画。テレビ用とはいえ見応え充分で、物語や演出の平易さがむしろ作品の通俗的な完成度を高めている。娘のビビがケーキ作りを手伝わせてもらえないのに腹を立ててクソとでも言わんばかりに棚に蹴りを入れるところから見事なタイトルバックに至るまでに色んなものが凝縮されすぎていて早くも好きになる。ドアの扱いも面白い。生活が侵食されたり、逆に主体的に侵食されにいこうとしたりするある種の境界としてわかりやすく機能している。最初の方はどんな感じだったか忘れたが気づいた頃にはマーゴットがドアを閉める動作がどんどん雑になっていて(閉まってすらいない)、初めにビビが棚に喰らわせた蹴りの暴力性と少しだけ重なっているようにも思えなくもない。なんだかんだいちばん楽しいのはThe Rolling Stones のWe Love Youが流れるところで、結構こういうロックな感じも意外とファスビンダーの映画に合うんだよなぁと思ったり。ここでもビビの蹴りが炸裂していて笑ってしまう。「この映画は自分自身にそぐわない人生を送る人間が、いかに真の自己から疎外され、どうしようもなく破壊されてしまうかを示している………彼女は無意識に自分の人生が実は彼女とは無関係なことに気づいている。こうした形での『病気』は誰にでも起こりうることだ」。ファスビンダーのこの言葉に尽きる。『不安が魂を食いつくす』が愛し合うふたりの物語であれば、この『不安が不安』は望まずして孤独に転落していったひとりの人物についての話である
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