三隅炎雄

機械人間 感覚の喪失の三隅炎雄のネタバレレビュー・内容・結末

機械人間 感覚の喪失(1935年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

スターリンによる大粛清下で製作されたソビエトSF映画の傑作。R.U.R.の文字が出てくるがチャペックの小説とは直接関係なく、ウクライナのヴォロディミル・ヴラドコの小説が元とのこと。

ヨーロッパのとある資本主義国、主人公の科学者はロボットによって全ての人間を労働から解放し、人間が誰にも支配されない世界を夢見るが、我々から仕事を奪うものだと労働者から裏切り者の烙印を押される。失意の主人公を拾い上げたのが資本家・政治家で、ロボットを大量生産することで利潤をあげると同時に迫りくる戦争に備えて兵士として転用、抗議の声を上げる労働者たちのストライキ潰しにも使う。蜂起した労働者たちと政治家・資本家・ロボット・軍隊との激しい戦いが起こり、労働者はロボットを手中にすることで赤色革命を成し遂げる。

科学者の中では科学技術と芸術が分かちがたく結びついていて、それによって人間が労働から解放されユートピアが実現すると夢想されている。映画は一応それを現実から目を逸らしたブルジョワ的堕落思想と位置付けつつも、ロシア・アヴァンギャルドの敗北というのか、主人公の死によって世界からひとつの大きな詩が失われたとも解釈出来る表現がなされているのが面白い。蜂起した労働者たちもまた権力側と同じように殺人にロボットを利用するのだから、単純な革命賛美の結末にはなっていない。映像は1935年のSF映画とはとても思えない圧倒的な迫力で、映画の思想をしっかりと支えて見事だ。国内盤DVDの画質も製作年代を考えると悪くない。
三隅炎雄

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