春とヒコーキ土岡哲朗

愛に関する短いフィルムの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

愛に関する短いフィルム(1988年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

屈折してはいるが、純愛。

全体的に切なげなブルーなタッチ。音楽が物静かで、テンポもゆったりしているので、登場人物の心の内側の動きがかえって際立つ。ほとんど主人公の目線で描かれているから、こいつに着目する他ないわけだが、「覗き魔」という極端な形なだけで、意外と万人共通の気持ちを表したキャラクターかも知れない。
恋愛は、相手を思い焦がれ、相手に何かしてあげたいっていうことを、あくまでも自分勝手に考えるもの。女に恋人がいることを悔しがっている主人公。しかし、女が恋人ともめて泣いていると、本気で心配する。「何もいらない」と言い切れる彼は、ただ彼女を愛したいだけ。一見、「じゃあなぜ覗くだけじゃなく、実際に女と接触を持とうとしたのか」と矛盾を感じるが、さすがに相手を支えるためには知り合いにならなければいけない。本当に力になりたいと思ったんだろう。女の方は、愛などないと言い切る。主人公は、女の肌に触れた途端に呻き出し、自室に戻って手首を切る。彼が求めていた愛は、手を伸ばせば簡単に触れられるようなものではないはずだから。電話で「あなたが正しい」と謝った女は、この時点で主人公の純粋さに心を奪われている。気になり過ぎて、逆に女の方から部屋を覗く。主人公の退院後、女は自分の部屋を、主人公が自分を見ていた目線から覗き込む。自分のこれまでの苦労をずっと見守ってくれて、支えようとしてくれていたんだと、改めてまっすぐな愛を感じる。(でも、“これまでの苦労”には主人公のストーキングによるストレスが絶対関わってると思う。)こんなだいぶ無理のある恋愛物語を、音楽と間と演技で、あたかもありえる流れのように成立させる手腕がすごい。