佐藤哲雄

エゴイストの佐藤哲雄のレビュー・感想・評価

エゴイスト(2001年製作の映画)
4.0
レンタルDVDでまとめ借りした内の1つだ。

しがない小説家バイロン(アンディ・ガルシア)が、ひょんなことから資産家の人妻に性の喜びを提供する仕事に就き、3度のピューリッツァ賞受賞歴を持つ小説家トビアス(ジェームズ・コバーン)の妻アンドレア(オリヴィア・ウィリアムズ)の担当になるところから、物語本編は始まる。

設定で面白かった点としては、妻アンドレアは夫トビアス公認で若い男を買って寝室での情事を楽しんでおり、時折りトビアスが逢瀬中の妻の寝室へ入ってきて話したいことを話して「失礼した。では楽しんでくれ。」と嬉しそうに出ていく、という辺りだな。

彼自身も若い頃は絶倫だったが、老いにより妻を喜ばせやれなくなったことで、妻が若い男を買って楽しんでいる姿についても、妻の喜びは私の喜びだ、と言い切るトビアスは、実に豪胆であり、本当に妻を愛している男の心理を実に良く理解をしている脚本家なのだと感心したよ。

そして、バイロンに小説家としての才能を見出したトビアスが、最期の傑作の手直しを彼に頼み、アンドレアとトビアスの両方を満足させてゆくストーリーは実に興味深かったよ。

劇中ではトビアスはバイロンに「大丈夫だ。もうすぐわしはコロッと逝くから。」などと、まるで他人事のように励ましながら老衰死をしてゆくが、この映画公開の翌年にジェームズ・コバーン本人も74歳で亡くなっている。


この映画は以前すでに観たことがあったのを冒頭10分あたりで思い出したよ。

だが、内容をあまり思い出せず、そのまま観続けたのだが、ある最後の場面を見て全て思い出したよ。

相変わらずイイ男なアンディだが、ウダツの上がらない小説家から始まり、結局はアンドレアに騙されて馬鹿を見るのだが、そう言った痛い目を見たからこそ、裏切ったことで別れてしまった自分の妻への愛情と、貧乏だけれども幸せだった頃を顧みて書いた小説が、皮肉にも売れるのだが、その朗読会の場面を見た瞬間に全てを思い出したよ。

夫の真実を知った妻が会場でのサイン会に訪れ、夫との再会を果たし、否、バイロンが妻との再会を果たし、そして、普通の幸せな家庭の男に落ち着いてゆく姿と、裏切った夫を許さないながらも、理解をし受け止める気持ちになった妻との哀愁のある夫婦の姿が実に良かったよ。

そのまま今の私自身と重ね合わせて見てしまったよ。

以前にこの映画を観た時の私の境遇と、今の私のそれとが大きく異なっており、自分とバイロンの人生が丸ごとダブっていることにより、感じることも全く違っていたよ。

私もバイロンも運が良かったと、今は思うよ。

バイロンを仕事に勧誘した男ルーシャス役をミック・ジャガーが演じており、彼も最後に朗読会に参加し、人生を振り返っていたが、この時の彼もまた、本当の幸せというものに気付かされてゆくのだが、ミック・ジャガーがこの難しい役どころを実に見事に演じていたことも書き添えておきたい。

と言うのも、この映画で最も意義深い存在感を醸し出していたのはルーシャスだったように思う。

彼はロックバンドのボーカルよりも俳優にこそ向いていたのかも知れないな。


当時初見では感じるものが無かったが、今回は実に感慨深かったよ。

映画はこうだから面白い。

映画は歳を重ねて何度か観るものなのだな、と改めて実感をしたよ。

観直すきっかけを作ってくれたレビュアーさんに感謝をしたい。

ありがとう。

追伸:
余談であり蛇足になるが、何年前だったかアンディ・ガルシアが来日をした際に、名古屋の錦のとある店で彼と会ったことがある。

彼は私よりも歳上だが、それほど変わらなく見えたし、やはり物凄くイイ男だったよ。

素敵な歳の取りかたをしていて尊敬する。
佐藤哲雄

佐藤哲雄