前から観たかった木下恵介の戦後8年後の日本を描いた「日本中の悲劇」。
女手一つで二人の子どもを必死に育てあげた母親の苦労と、報われない人生を描いています。母親役の望月優子は、イタリアのマンマ、アンナ・マニャーニや、キャシー・ベイツのように、肝の座った逆境に耐える強い女性を演じます。大好きな女優です。
戦後の復興期がいかに混乱していたかを表した映画は初めてです。突然の「民主主義」と「今までは間違いだった」と学校の先生が180度違うことをいい、子どもたちが、大人へ不信感を募らせるのは当然でした。
食糧難の時代、正直に配給だけで生きると餓死する。闇取引すれば捕まる。食糧難なのにあるところにはある。国への不信感を国民が抱き、各地で暴動が起きていました。日本中に不満と怒りが蔓延していた新聞記事が続きます。リアルタイムの戦後です。
この作品のテーマは、戦後に価値観が変わったことで世代が断絶していったことと、切り捨てられた人々の存在だと思いました。
親の苦労、子知らず。
「ひとよ」の田中裕子を思い出しました。
「子どものため」にという思いは、子が親になった時に初めてわかる。それまでに親が健在ならいいですが、親の苦労を知った時に親は亡し。
母が戦時中から戦後の8年間を回想するシーンはすべて無音になります。食べることさえままならない、育ち盛りの二人の子どもを養わなければならない母一人にかかる負担。周りが見えず、無音でしか思い出せない。
木下恵介が描く母は私利私欲なく滅私の母。甘い優しさではなく、人間として生きる力の源である母、そんな母親像を感じます。
戦後8年、1953年(昭和28年)、インフラは整備され、経済が回り、モノ不足は解消され、経済成長が始まっていましたが、満たされない心。
登場人物、みな満たされていませんでした。
何かを忘れてきたのか、新しい時代について行けないのか、高度成長期に突入する前の、日本人の心の歪みが露になっていました。
風刺画の趣のある作品でした。
佐田啓二がいちばんバランスのよい流しのギタリスト役でしたが、上原謙の英語塾の先生かなり引きました。「僕の日記を読んでください」と若い女性に迫って気持ちを告白します。みんな病んでました😢