シズヲ

ボディ・スナッチャー/恐怖の街のシズヲのレビュー・感想・評価

4.2
「君たちは狙われている」
「妻も子供もみんな奪われるぞ」
「やつらはすぐそこに!」
「次は君だ!君なんだ!」

“人間を乗っ取って日常を侵食する未知の存在”という題材を確立させたSF古典小説『盗まれた街』の映像化作品。『SF/ボディ・スナッチャー』や『ボディ・スナッチャーズ』など、その後も幾度となくリメイクされている古典的SF映画の金字塔。後年では最早使い古されてる筋書きではあるものの、監督の力量もあって十分なスリルが保たれている。

目に見えぬ社会の変異、多数派による迫害、思想や感情の抑圧、孤立へと追い込まれる恐怖と反発。共産主義のアンチテーゼとも赤狩りへの警鐘とも取れる内容は、時代を超えても色褪せぬ“普遍的な恐怖”に満ちている。主人公達に人間的思考の放棄を淡々と促す“元人間”の恐ろしさ、寓話性の領域に片足を突っ込んでいる。

基本的には50年代のB級娯楽作のフォーマットに則っているものの、やはりその界隈を主戦場としてきたドン・シーゲル監督の手腕が光っている。冒頭から日常の違和感をちらつかせるシークエンスが無駄なく端的に描かれ、そこからどんどん不穏な状況が顕在化していく優れたサスペンス性に唸らされる。80分程度の尺で全く以て無駄がない。テンポの良さと淡々とした演出の的確さも相まって、話が進むにつれて順当にエンジンが掛かっていく。陰影が際立つ映像の構図も要所要所で印象を残してくる。

そして低予算を逆手に取る形で“すり替わっていく日常”を描いていく秀逸ぶり。何の変哲もない朝の街並みに“違和感”を抱く主人公、その矢先に人々が広場へと次々に集合していく描写の不気味さなどは印象深い。派手な視覚性や特撮に頼っていないからこそ、サヤから生まれる“複製”の絵的なインパクトが大きい。日常の侵食がじわじわと描かれた末に訪れる終盤、“迫害の顕在化”によって一気に物語の緊迫感が加速していく。炭鉱でのキスシーンの恐怖、ハイウェイに飛び出した主人公の悲痛な叫びなど、畳み掛けるシーンがいずれも強烈に焼き付いてくる。

終盤を見ていると入れ替わりの仕組みに疑問は残るが(複製体に記憶が転写されて入れ替わるのだと思ってたら、なんか本人の思考が瞬時に乗っ取られてないか?)、まぁ演出の力で何やかんや乗り切れてしまう。そんでサム・ペキンパーちょい役で出ててフフってなった。
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