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ダウンヒルのryosukeのレビュー・感想・評価

ダウンヒル(1927年製作の映画)
3.6
「ふしだらな女」に次いでヒッチコックのサイレント映画を見たが、正直今のところはサイレント期のヒッチコックあんまり面白くないなという印象。まあ「下宿人」はそのうち見よう。出来るだけ中間字幕を減らす心意気は良いのだが。
サイレント映画らしく固定ショット中心で映像が組み立てられるのだが、校長室での告発のシーンは真正面に向き合った人物の一方が歩み寄る切り返しがトラッキングとなり、運命の瞬間を際立たせる。どちらの生徒かと問われ女が視線を動かすのに対応したパンがスリリング。
放校され、自宅を失い、転落していく主人公がエスカレーターに乗って地下に吸い込まれていくショットが印象深い。階段に象徴的な意味合いを付与するヒッチコックの演出はこの頃からで、「私は告白する」の遥か前に冤罪のテーマを取り扱っていたようだ。
女優の女との出会いのシーンで、背もたれにもたれかかり首を後ろに曲げた女の主観ショットとして、上下反転+ダッチアングルで主人公を映すショットが面白い。
序盤に告発者の女と親友との間で結ばれた男二人女一人の関係だが、役者の女のエピソードでもこれが繰り返される。もっとも、今度は主人公がキスをする立場に入れ替わる。後ろからの視線を傘でサッと遮る。そんなキスシーンを経て、主人公は、今度は階段を上がっていき、部屋には遺贈を知らせる手紙が到着している。しかし、この階段のショットは、不気味に主人公の影が伸びており、偽りの上昇であることも予感させる。
そうすると、やはり男が自宅に忍び込んでいるエピソードに続く。主人公が右端のタンスを確認するのと同時に左端のタンスからひょっこり男が顔を出すところなど、サイレント的なコメディー描写という感じであまり深刻さはない。再び家を失った主人公はエレベーターで下降することになる。
ダンスパーティーのシーンでは主人公が新たな女に惹かれかけるが、窓から日光が差し込む時、長いパンの果てでクローズアップにより映し出された女は、先ほどまで美しく見えたはずが老いた顔が醜く映る姿に変貌しており、ここにも救済はない。
廃人同様になった主人公が仲間に支えられて階段を降り、続いて船のデッキから船室まで降りていく。遂に階段の映し方が主観ショットとなりぐらぐらと揺れる。これが最後の下降であることを予感させるが、では、主人公はそこで朽ち果てるのかそれとももう一度上昇するのか。
主人公が船室で見る父親の幻影。振り向いた父親の顔はドラキュラか何かのような怪物的な恐ろしさを備えている。ヒッチコックらしく怖さが出たのはここぐらいかな。しかし、明るい予兆は一切無いにも関わらず、主人公は船室からデッキへの階段を上がる。物語の性質上、これは無理やりでもハッピーエンドが接合されることを予告する。
自宅の椅子に呆然と座る主人公が、手前に歩いてきた父親に呼びかける。ゆっくりと振り向く父親。先ほど見せられた幻影と同じ挙動故にこれがサスペンスを生むが、父は息子を受け入れるのだった。
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