くもすけ

山の焚火のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

山の焚火(1985年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

やけにうまい。三部作の唯一フィクション、とあればもっと荒削りなものを想定していたのに、知性もマジカルな部分も素晴らしい。
とにかく狭い空間に閉じ込められて、エネルギーを有り余らせた弟の移動に終始翻弄される。家のあちこちに彼のための空間が用意されていて、天井の片隅、姉の部屋の床、に出没したかと思うと、父親相手のカードゲームを疎かに、ソファでくつろぐ母と姉の間に収まって頭をなでてもらい膝枕をしながら姉の声帯に手を這わせる、やりたいほうだいである。かれの放埒は、どうやら父親にあだ名された「癇癪持ち」に由来するらしいのだが、両親はそれを考慮してか外界に逃げられるのを嫌ったか、この坊主を諌めることはない。

鼠を磔に地中に沈め、ラジオを壊し、豚と戯れ、草刈り機を崖から突き落とす。かつて父が作ったという石垣を真似たにしては無用の長物にしかならない石積に夢中になり、焚き火をたくピークに至るアクシデントさえ、実に唐突で、父は驚愕こそすれ、出て行けなど一言も言わない。息子はただ、翌日には荷物をまとめて(パンを盗み)いなくなっている。彼の所在に気づいた姉は、しかし彼と通じ合う指文字で、何を理解したのだろうか。帰還のしかたも実に曖昧で、姉には動揺こそあれ、このあとどうなるどうするなど、考えもないようだ。