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ゴングなき戦いのお話探しのレビュー・感想・評価

ゴングなき戦い(1972年製作の映画)
3.5
パッとしない人生を送る中年にとって「ロッキー」の熱さは勇気を貰えるが、本作の苦々しさはマジで自殺したくなる威力…!

充実や幸せといった瞬間が無い訳ではない。しかし文字通り“瞬間”なのだ。どん底同士で出会った女との関係も、再起をかけて打ち込むボクシングも、喜びや手応えに一瞬触れた…と思ったら、次の瞬間には遣る瀬無い現実が仮借なく横たわっている。

クライマックスの試合、主人公にとっては人生を賭けたハイライト…! …のはずが、試合直前に描かれたのは相手選手の血尿…。何か「さぁ、やってやるぞ…!」というこちらの高揚感すら奪われる。
試合中、相手の体調不良に主人公は気付いたのではないだろうか。開始早々意気込みに水を差されるが、先にダウンを奪われてしまう展開に。
ここでの「畜生、こんな相手、こんな試合にまで俺は負けるのかよ!? ふざけんな!!」と言わんばかりに攻勢に出る瞬間には、確かに意地、熱、大きく言えば“生の手応え”のようなものがあった。しかし、やはり“一瞬”なのだ。

試合後、憮然とした態度でコーチのもとを去る原因は金だけでなく、「絶不調のあのレベルの選手にあれだけ苦戦する自分」と、試合を振り返って己の可能性の底に見限りがついてしまったせいもあるのではないか。

そこから少し時間がとんだラスト、先に気付いたアーニーが逃げようとしたところからもう最高(苦笑)なのだが、結局付き合わされるコーヒーショップでの、最後のやり取りの切なさたるや…。
惨めにすがる主人公の頼みを断らないでくれた“有り難さ”…これも次の瞬間には、元の気まずい沈黙に塗り替えられてしまう。締め括りまで容赦がなかった。

こんな刹那的な幸福や、儚い充実を「そりゃ現実は所詮…」と諦念で受け止めるか、「いや! たとえ一瞬でもよぉ! それはかけがえのないものなんじゃねぇのか!?」と、なけなしの可能性を鼓舞できるか。
他人には勧め辛いが、大事な一本になりました。
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