酢

ゴングなき戦いの酢のレビュー・感想・評価

ゴングなき戦い(1972年製作の映画)
4.8
ボクシング映画と聞いたのに、ここでは勝ちと負けに本質的な差がない。高揚感と無縁の諦念。絶望にさえ辿り着けない足踏み感。そんな中で甘えて拗ねて、突然奮起してそれでも流されて、来る日来る日をやり過ごす。敗者が描かれている、と単純に一括りに出来ない。人生を生きるとは敗者になること、とでも言いたげな根本的な上手くいかなさがここにはある。あらゆる箇所に顔を出す、やる気に水を差す中折れ的なノイズ。これだけ物が落ちる映画は他にない。これだけ会話が噛み合わない映画も他にない。「会話」とは本来各々が言いたいことを言っているだけの様子に貼られたラベルのようなものに過ぎないのかもしれない。話すこともないのにステイシー・キーチがジェフ・ブリッジスを「話そう」と呼び止めるのは何故か。この矛盾に満ちた孤独が骨身に染みるほどわかる、そんな人に見て欲しい。見たら救われる、とかでは全くないが。
酢