クライマックスで図らずも再登場したスーパー・マーケットの場面。この素晴らしい動線の長回しのフレームワークは圧巻である。『愛は死よりも冷たい』同様に女の密告が男たちの野望を打ち砕く悲劇的なクライマックスの退廃的な世界。そのことを同じように嘆いてみせるヨアンナ、マルガレーテの胸の内と愛情の欺瞞を暴いてみせるファスビンダーの手腕。シュレンドルフ『バール』の現場で一緒になったギュンター・カウフマンとの運命的な出会いと、ヨアンナ、マルガレーテという2人の女性との関わり合いを通じ、極めて商業映画に近付き、ジャンル映画に奉仕した初期ファスビンダーのターニング・ポイントとなる作品である。冒頭に流れたRay Charles『Here we go again』の破れかぶれの素晴らしさ、クライマックス前、情報屋がふと口ずさむメロディはロバート・オルドリッチ『ふるえて眠れ』の主題歌に他ならない。今作はそういう数ある映画史の引用を通して、フィルム・ノワールを再構築したファスビンダーらしからぬ珍しい作品なのである。