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ワールド・トレード・センターのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

普段どおり勤務についた港湾警察のマクローリン巡査部長の耳に、ワールド・トレード・センターに航空機が突っ込んだとの信じがたい報告が入る。わけもわからず現場に急行した彼は、部下のヒメノらとともにビル内に救出作業に向かうが、そのとき建物が崩落、彼らは瓦礫の下敷きになってしまう…。

自身の実体験を元にベトナム戦争の過酷な現実を描いた「プラトーン」、帰還兵の現実に切り込んだ「7月4日に生まれて」、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件を陰謀論の観点から追った「JFK」など、社会派作品で知られるオリバー・ストーン監督の作品。

国が悪い!政治が悪い!ある時は資本主義が悪い!と声高に批判してきた監督の作品だけに、きっと「テロが悪い!」と、イスラム教徒を激しく批判するに違いないと敬遠してきた作品だが、意外や意外、描かれるのは政治も権力も無縁の名も無き庶民の姿。
「これがオリヴァー・ストーン作品か?」と疑うほど大人しい。

アメリカ同時多発テロ事件から僅か5年で事件を劇映画として描いた訳だが、首謀者のイスラム過激派テロ組織「アルカイダ」の指導者ウサマ・ビンラディンがアメリカ特殊部隊によって殺害されたのは2011年。

この映画ができた時点では、対テロ戦争の只中にあったが、依然テロの首謀者を捜査中。
少しは事件の背景について、オリヴァー・ストーンなりの主張があるのではないかと思っていたが、社会派の彼でさえ、この時点では曖昧な推測など入れることが出来ない非常にデリケートでシリアスな題材であったことが良く分かる。

本作は、ただひたすらに、「あの日、現場では何が起こっていたか?」を真摯に再現している。
豪華キャストでありながら、我先に目立とうと奇異なキャラクターを表現する俳優も、無謀な賭けに挑戦するようなヒロイックな演技をする俳優もいない。
警官たちの実体験を忠実に再現した実話であるために、ドラマ性は正直薄く、エンタメ性は低い。

瓦礫に埋まった警官2人が励ましあって何時間も耐え続ける。
サイドストーリーは彼らの消息を心配し、無事を祈り続ける家族の姿。
最後には大勢の救助活動により、2人は無事に救助される。

ただ、それだけの話である。
だが、実話ならではの重みがある。
当日の混乱、過酷な救助現場の空気を、的確に淡々と伝えてくる。
テロリストたちについては何も分からないが、あの日あのとき、見も知らぬ人間の救助活動に命をかけた人々には愛があり、使命感があり、そして善良だった。
それが人間の本来あるべき姿だと訴えてくる。
製作に携わった監督、スタッフ、出演者、全員の真摯な態度も伝わってくる。

未曾有の大事件だが、悲惨さを伝える泣き叫ぶ人々も、過剰な報道も、政治家の対応もなく、オリバー・ストーン監督作品に見られる独特の毒もアジテーションも一切ない。
私を含め、彼の作品にそれらを期待する者は肩透かしを喰らうだろう。
だが、人間を信じることが出来る良作である。
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