爆裂BOX

悪魔の虚像/ドッペルゲンガーの爆裂BOXのレビュー・感想・評価

4.3
交通事故で瀕死の重傷を負ったペラムは、事故以来「もう一人の自分」を感じるようになり…というストーリー。
三代目ジェームズ・ボンドを演じたロジャー・ムーアがブレイク前に主演したサスペンスホラーです。原作の「ペラム氏の事件」はヒッチコック劇場でも映像化されているようですね。
交通事故に遭い瀕死の重傷を負ったペラムは、回復以来、普段の生活の中で行ったことのない場所で目撃されたり会った事の無い人と会った事実を語られ、次第にもう一人の自分の存在を感じ始め、生活を侵食され精神的に追い詰められていくという内容です。
ドッペルゲンガー物ですが、ドッペルゲンガー自体は終盤になるまではっきり画面に映らず、車に乗って主人公の家を見つめているシーンで手元だけ映ったり、行ったはずのない日にクラブで目撃されたり、知らないうちに別の女性と関係もってたり、自分が切る前日に散髪屋にいってたりと周囲の言葉などでその存在をほのめかしていく演出が静かながらスリリングで楽しめます。主人公が同僚と会うため行ったホテルでついさっきまでそこにいたもう一人の自分の後を必死で追い掛けるシーンは劇的に盛り上がる演出してないにもかかわらずハラハラしました。ジワジワと日常が侵蝕されていく不気味さは「ボディスナッチャー」物に通じるものですね。
妻からも不信感を持たれ、確かにその存在を感じるにもかかわらず姿が見えないもう一人の自分に追い詰められていく主人公をロジャー・ムーアが確かな演技力で熱演しています。その追い詰められ疲弊し焦燥していく姿も見所ですね。終盤の焦燥する主人公と余裕たっぷりなドッペルゲンガーの演じ分けは見事でした。
仕事で大きな成果を上げるために裏工作したり、セクシー美女と浮気したり派手な車乗り回したりと実直で生真面目な主人公と正反対な行動取るドッペルゲンガーは主人公のダークサイド部分が事故で瀕死状態になった時に分裂したものかと思いましたが、主人公が頼った精神科医の分析が当たっているなら、ドッペルゲンガーこそが本当の自分で、主人公は慣習に囚われ外様に装った偽物の自分と言えるのかも。最初のシーンで普通に車運転していたのがいきなりニヤリと笑ったと思ったら乱暴な運転になる辺り、事故前から侵蝕されていた感じを出しますね。手術中に心電図のモニターが二つに分かれたシーンで分身が誕生したと分かる演出も良いですね。冒頭で自動車を運転する主人公が猛スピードで道路を走らせるシーンはスピード感あって迫力も有りました。
精神科医が椅子に座った主人公をくるくる回しながらそれについて歩きながらしゃべる様子を円周に映した演出や、特典で今は亡きスチュアート・ゴードン監督が取り上げる、主人公の周りをドッペルゲンガーが回る所を同一画面で映したシーンは今見ても「どうやって撮ったんだろう?」と思わせる秀逸なシーンですね。撮影はかなり難しかったんじゃないかな。
主人公が精神病院に入院してる間にドッペルゲンガーに仕事も妻も全て奪われるシーンの絶望感は堪らないです。その後家に帰っても服装を変えたせいで別人と思われ信用されないシーンも良いですね。
車で逃げる主人公がバックミラーを見たら奪われた人達が浮かんで、そして自分の顔が映り叩き割るとその顔が無数に増えるシーンも強烈に印象的。原色の赤や緑のライトも。
ラストは難解な感じもありますが、主人公の死と共にドッペルゲンガーも死の痛みを感じ、その後の複雑そうな表情はジョー・ダンテ監督の指摘通り彼も個性を失ったという事かな。
あまり情報入れずに期待せずレンタルしましたが、静かでサスペンスフルな演出とロジャー・ムーアの演技力で思わぬ秀作でした。特典の上記二大ホラー監督による解説も豪華で見応えありました。