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折れた銃剣のnetfilmsのレビュー・感想・評価

折れた銃剣(1951年製作の映画)
3.3
 『鬼軍曹ザック』に続く朝鮮戦争を題材にした戦争映画。前作で鬼軍曹ザックを演じたジーン・エヴァンスが今度はロック軍曹を演じている。フラーの映画では位が上の人間よりも、下級の兵士を描くことが多い。今作では朝鮮戦争に従軍した下士官を主人公に、本隊が後退を完了するまで、敵の朝鮮軍を食い止めるよう指令を受けた米軍の小隊が、最前線の洞窟に立てこもりゲリラ戦を開始する一部始終を描いている。エヴァンスの役柄は今回も勇敢なリーダーであり、統率力とカリスマ性に秀でた男である。それに対して、ディノ伍長 (リチャード・ベイスハート)は士官学校で優秀な成績を収め、今は伍長の地位にいるが、戦争で人を殺すことができない上、自らの指示の失敗で部下が死ぬことを恐れ、部下に指示を出すことすらできない臆病な伍長を演じている。

戦争下の臆病な伍長という前代未聞なキャラクター作りも、リアリティを重んじるサミュエル・フラーならではのものと言えるだろう。彼の映画では英雄的行為を声高に賞賛せず、ひたすら生き残るためのサヴァイヴァルを続ける兵士たちに天は味方するのである。エヴァンスとディノの小隊は、皮肉にも撤退することになった師団のしんがりを務めることになる。組織においては上官の命令が全てであり、例外はない。もし上官に逆らえば、敵前逃亡したとしてその場で、あるいは後々処刑されるに違いない。ディノ伍長は聡明で、この苦しい環境下においても部下の兵士たちを冷静に見守っている。だがエヴァンス扮するロック軍曹の血気盛んな指令の数々は、今作においてことごとく失敗に終わる。その度に小隊の兵士たちの命が少しずつ奪われていくのである。だが残酷なことに臆病な伍長と勇敢な軍曹の立場が皮肉にも入れ替わる場面がある。それが夜中に小隊の兵士たちが全員靴下を脱ぎ、それぞれの足をくっつけて壊死しないように血液を循環させる場面である。ここでエヴァンスはディノの足をさすりながら、「これだけ冷たいと切断しなければならなくなるぞ」と彼を脅すのだが、その足は皮肉にもディノの足ではなく、エヴァンスの足なのである。

地雷を恐れず仲間を助けに行けても、決して引き金を引けない彼の戦争に対する恐怖心は、皮肉にも隊長交代劇により克服される。アメリカ側の洞穴は一見安全そうに見えたものの、弾が洞窟の岩に当たり、軌道が変わり軍曹の腹を射抜く。ここで軍曹に相談していた指揮官にはなりたくないという思いが皮肉にも現実のものとなり、去勢されていた男は大胆にも敵軍戦車を迎え撃つことになる。『鬼軍曹ザック』からは製作費も製作日数も2倍になったものの、それだけでジョン・フォードのような素晴らしい戦争映画にはなかなか肉薄することが出来ない。前半、アメリカ軍の攻撃の着弾する一瞬のショットはおそらく模型だろうし、中盤のラッパの奪い合いや地雷を避けながら歩く描写には、戦争をストレートに描けないフラーの苦しい活劇術が横たわっている。『鬼軍曹ザック』以上にアメリカ兵の束の間の会話の比重は高いが、何より前作『鬼軍曹ザック』以上に、仲間の死を無駄にしない生き残りたちの姿を闊達に描写したラスト・シーンが圧倒的に素晴らしい。
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