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UTU(ウツ)/復讐のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

UTU(ウツ)/復讐(1983年製作の映画)
4.0
No.745[復讐のねずみ算] 80点

1982年当時のニュージーランドで最大の予算を使って製作されたマーフィの代表作。日本でVHSが発売されているのが不思議でならないが、それこそバブル期のビデオ特需に感謝せねばならないのかもしれない。現在DVD以降のメディアで出回っているフランス版とニュージーランド版のうち後者は監督が再編集したバージョンらしい。また、原題の"UTU"はマオリの言葉で"怨念のこもった復讐"を指すとのこと。

1870年のニュージーランドにおける原住民マオリと宗主国イギリスとの戦いを描くある種ウエスタン的な映画。主人公のテ・ウェケはイギリス軍に従軍していたが、故郷の村を軍に破壊されたため脱走して群盗を組織する。プランテーションを経営していた白人のジョナサンは妻をテ・ウェケに殺され、現地生まれの白人中尉も惚れたマオリの女性をテ・ウェケに殺されて彼に復讐を誓う。そこに、イギリス軍に従って同胞を殺し続けるテ・ウェケの兄ウィレムやイギリス本土から赴任してきた白人大佐などが加わり、彼らの思惑や行動を並行して語ることで、縦と横に展開する差別意識や仲間意識を鮮やかに描き出す。と同時に復讐が復讐を生み出し、ねずみ算的に膨れ上がっていく様を克明に描写している。

最終的には兄であるウィレムが全ての責任を引き取り、テ・ウェケと同じフィールドに立つ唯一の人間として彼に引導を渡すことで復讐の連鎖を断ち切っている。テ・ウェケを英雄とも狂人とも描かず、中立的な立場から物語っているのが興味深かった。

とにかく発狂したブルーノ・ローレンスの演技とロケーションの勝利といった感じで、雄大な自然をバックに繰り広げられる陰湿なウエスタンに心を奪われっぱなしだった。現地人の復讐ものとしてエンタメ的に観ても非常に優れていることが分かる。

史実としては土地を買い叩いていたイギリスに対してマオリが蜂起した1859年から1872年まで"マオリ戦争"と呼ばれる戦争が続いたが、結局はマオリ側が物量に押し負けてしまったらしい。更にはマオリを反乱民族と扱うことで土地を買い上げるどころか没収して回ったようだ。世界史習ってると世界中を引っ掻き回したイギリスの害悪っぷりがよく分かる。当時の人間から見て、EU抜けるのでズタボロになった現在の姿を見たらなんと思うのだろうか。
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