Omizu

テンダー・マーシーのOmizuのレビュー・感想・評価

テンダー・マーシー(1983年製作の映画)
3.4
【第56回アカデミー賞 主演男優賞・脚本賞受賞】
『ドライビング Miss デイジー』ブルース・ベレスフォード監督作品。カンヌ映画祭コンペでプレミアされ、アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞(ロバート・デュヴァル)、脚本賞、歌曲賞の5部門でノミネートされた。『地獄の黙示録』などの名優ロバート・デュヴァルが四度目のノミネートでオスカーを獲得した。

いい映画だった。良くも悪くもロバート・デュヴァルのための映画であり、彼の魅力が渋く滲み出ている。物語としては完結しているとは言いがたい部分があるのが残念。

ただ、それを描いてしまったら軸がブレるのであえて描かなかったのかなとも思う。これはこれでいい。

落ちぶれたシンガーの再起、ということだとどうしても『クレイジー・ハート』や『アリー スター誕生』を引き合いに出さなくてはならない。ロバート・デュヴァルは実際に歌い作詞作曲もしているのだ。アカデミー主演男優賞はどうも落ちぶれた男の再起物語が好きなようだ。

とは言ってもアル中地獄の『アリー』などとは違ってそこは控えめ。重めの展開をあえてパスしているようだ。酒を止める描写、離婚した元妻、その娘との展開が欠如しており、どうも都合がいい。

マックは最初から最後まで粗野だが優しい普通の男。どうやってアル中から脱したのかの描写がないので重さが伝わらない。それでいて話がトントン拍子に進んでいくのでなんだかなぁという感じ。

しかし、ロバート・デュヴァルの演技が素晴らしいのだ。歌う姿、涙を浮かべる姿、働く姿…全てを魅力的に映している。相手役のテス・ハーパーもいいのだがやっぱりデュヴァルのための映画だろう。

消化不良な部分が多く残るのはご愛嬌。ライトすぎる黒人映画として今では評価が分かれる『ドライビング Miss デイジー』と通じるところはありつつ、割と淡々と描いているのがいい。

ラストもバプテストに改宗したマックの神への疑いが晴れない。「生きている」ということの意味を考えざるを得ない結末になっている。生きているという宿命を背負った以上、どんな形であれ謳歌しなければならない。そんな苦悩が滲み出るラストだ。

映画としては足りないところが多くあるが、デュヴァルのための映画という意味では100点満点。地味ではあるがとてもいい映画だと思った。秀作。
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