backpacker

ブロークン・ジェネレーション/撲殺!射殺!極限の暴力少年たちのbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
【カリテファンタスティックシネマコレクション2022 サタデー夜コーマン】

男同士の"愛"

ーーー【あらすじ】ーーー
田舎町。勉学を嫌う逸れ者のボー(演:チャーリー・シーン)とロイ(演: マックスウェル・コールフィールド)は、ハイスクールを卒業した。休みが終われば、近隣の工場で一生働く予定である。自分達の親となんら変わらない、退屈な人生へと続く道だ。
そんな未来に嫌気の差した二人は、ハリウッドへと現実逃避の旅に出る。刹那的にハジける二人であったが、ロイが胸の内に秘めていた暴力衝動に身を委ね、殺人に手を染めてしまったから、さぁ大変。
若者として残された最後の時間を満喫するための乱痴気騒ぎは、瞬く間に無軌道に逸れていく……。
ーーーーーーーーーーーー

若き日のチャーリー・シーンと、イギリス人俳優(現在はアメリカに帰化)のマックスウェル・コールフィールドがW主人公で登場する本作は、アメリカを震撼させたシリアルキラー達を背景に、若者達の暴走と破壊衝動を描く作品……だと思っていました。
ところがどっこい、実のところ本作は、ミソジニー丸出しなホモソーシャルワールドに見せかけて、性的抑圧と友情が原因となった男性間の同性愛を描いた、スレ違い片想いブロマンス映画だったのです。

ボーは、性的指向はストレートとして描かれます。常に「女とSEXしてぇ!」という願望を垂れ流し、ハリウッドの夜道を車で疾走する際も、歩道の女性や立ちんぼに対して、下劣なお誘いの言葉を叫びます。女性陣からはすげなく扱われるは、何言われたのかわからないは、田舎もん丸出しの状態を晒すばかり。
一方のロイ。彼は、痩せた体つきのボーと明確に比較されるような、筋肉質のイケメンです。マチズモの権化的な言動を取るロイですが、彼が性的指向を口にする事は、殆どありません。ハリウッドの夜道でも、歩道ではなくスクリーン側(車道側)に向けて「フェラしてくれ!」と叫びますが、その言葉は宙に消えていきます。特定の女性に向けてというより、何か別のアピールのようですね。

中盤、ボーとロイはゲイコミュニティ(ゲイバー)を偶然訪れ、そこで知り合った青年の家に上がり込みます。家に着くなりシャツを脱ぎ、鍛えられた上半身を見せるロイ。そんなもの見せられた青年はたまらなくなり、「若い男二人とSEXできる!」と一人大興奮状態です。そんな青年の背後からロイの腕が回され……始まりましたのは、ロイによる殴る蹴るの暴行祭り。ボーも加わったバイオレンスは、最終的に、ロイが青年を拳銃で射殺し終わりました。
このとき、ロイはゲイの青年に対し、明確な敵意と侮蔑を持って行動するのですが、これは、自らの性的指向を開けっぴろげにする青年に対する逆恨みであり、自分はそうできないことへの不満の吐け口としての暴力に昇華されたものでした。

映画が進むにつれ明確になっていきますが、ロイはボーのことを、男友達以上のものとして見ています。しかし、それをボーには告げられません。なぜなら、ボーはストレートであると分かりきっていますし、ロイ自身も自分がゲイであると認めたくないからです。

故に、ボーがバーで知り合った女占い師とSEXをして童貞を喪失するシーンでは、ロイはただひたすらイラつき、ボーと女占い師とのSEXを見ないよう台所に逃げ込み、なんとか苛立ちを抑えようと酒を呷るのです。
それでも収まりがつかなかったロイは、結局ボーとSEXの真っ最中だった女占い師を、殴り殺してしまうんですけどね。


遂に警察に追い詰められたボーとロイ。
ボーは、「どこまでも逃げよう」と訴えるロイを撃ち殺します。
警察になぜ仲間を殺したのか問われたボーは、「こうするしかなかった」と答えるのですが、要するに、ロイが自分に向ける愛情をわかりつつあったボーが、それを受け入れられなかったために、死を持って決着をつけた、ということなのでしょう。手酷い振り方と言うか、ケジメというか……。

なんにせよ、不安定な若者の絶望と逃避のアメリカンニューシネマ式バイオレンスアクションかと思ったら、男同士の恋愛物だったという内容には、正直驚きを隠せません。

ペネロープ・スフィーリス監督は近年のインタビューで、本作の暴力描写を悔やみ、監督したことへの後悔を語っているようですが、愛情の発露・射精のメタファー的残酷表現なんですから、これは必要な暴力だと思いますよ。悔やんでるなんて言われたら、楽しんでみた観客としては心の落ち着けどころがわからんじゃないの……。
backpacker

backpacker