horahuki

デッド・オブ・ナイトのhorahukiのレビュー・感想・評価

デッド・オブ・ナイト(1974年製作の映画)
3.9
僕の命を返して!!

ベトナム戦争で戦死したはずの息子アンディが突然帰って来る。家族は大喜びするけれど、アンディはほとんど喋らず様子がおかしい…。そして、その日を境に町では殺人事件が起こり始める。家族はアンディが犯人なのではないかと疑うが…。

このジャケで面白くないわけがないという安心感!しかも監督は『暗闇にベルが鳴る』のボブクラーク。予想されるようなテンション高めグチャドロ展開ではないのだけど、悲しさと虚しさが込み上げてくる思った以上に良い作品!

本作は『猿の手』的な映画。息子の死を受け入れられない母親の「願い」が届いたかのように、病んだ彼女に重なるトラックが死んだはずの息子を彼方から連れてくる。その「願い」の先にあるおぞましさは『猿の手』が描いたものと同じで、それはそのまま感覚としてアンディに受け継がれ、そこに座っているだけでおぞましさの権化的凄みを纏わせている。

アンディは死人として描かれてはいるけれど、良くあるゾンビ映画とは違い、意思疎通はできるし、家族が彼に対して抱く違和感はギリギリ人間の範疇に収まっている。そこが本作のキモで、死人としてのアンディは戦争によるPTSDで別人のように変わってしまった息子に対する両親の反応と、戦争の被害者である帰還兵の行き場のない怒りをデフォルメ化して表現するための手段とも捉えられる。そのまんま怪談的にももちろん捉えられるけれど。

また、単なる殺人に留まらず、アンディは被害者から血を抜き取り自分へ注射するという吸血行為を行うのも面白い。血に対する飢えは生に対する飢えでもあるのだけど、苦しすぎる現実からの心の避難所として吸血鬼を設定した本作は、ロメロの『マーティン/呪われた吸血少年』に先んじたもので、スラッシャーに対する『暗闇にベルが鳴る』だけではないボブクラーク監督のホラー映画史的重要性がここでも発揮されてるのが凄い!

音の演出も面白くて、恐怖シーンでの弦楽器を細かく掻き鳴らすような不穏な音のインパクトが抜群。日常シーンでもロッキングチェアのギコギコと揺れる音、ブラインドの音等、規則正しい音が真逆の病的さを煽るようにあとを引くアンディの部屋の青に統一された色彩選択もわかりやすくて良かった。

Filmarksプレミアムとかいう有料サービス始まったっぽいけど、どうなんでしょうね…。作品リクエストとかプレミアムだったら速攻登録してくれるみたいなやつあれば入るかも笑
horahuki

horahuki