このレビューはネタバレを含みます
妻が夫を見限る瞬間が怖い。
アフリカでライオン狩りをする夫を双眼鏡で見つめ続ける妻(ジョーン・ベネット)。
夫(ロバート・プレストン)を映し出すロングショットも効果的。
暴れる手負いライオンに怯えて逃げる夫を見て「この男ダメだ…」と、男を完全に見限った瞬間の女の姿を見事に表現しています。
夫の臆病な行動を見たすぐ後に、夫に見せつけるように、冷静沈着で有能なガイドであるグレゴリー・ペックにキスをするシーンのゾクゾク感と夫プレストンの屈辱感たるや…。
その後、男としてのプライドと妻の信頼を取り戻そうと必死になるプレストンが何とも哀れ。
「飾窓の女」や「スカーレット・ストリート」に並ぶジョーン・ベネットのファム・ファタールものと言ってもいいかもしれません。
プレストン&ベネットの夫妻とペックの3人が繰り広げる濃密な人間ドラマに最後まで目が離せませんでした。
夫の死の真相は?
回想形式なので、途中で終盤の展開が読めてしまうのが難点かもしれませんが、ベネットが女の怖さを見せる一方、彼女が夫に対して抱いていた心情には思わず納得も。
ミクロス・ローザの音楽が、ハリウッド作品を手掛けるようになってからのフィルム・ノワール調と、イギリスでのコルダ作品時代の冒険活劇調を使い分けているのも印象に残ります。
原作はアーネスト・ヘミングウェイ。
「決死の猛獣狩り」(パブリックドメイン版の冒険映画コレクションDVDに収録)という邦題で冒険活劇風のストーリーを思い浮かべるかもしれませんが、実質的にはフィルム・ノワールに近い雰囲気のある作品で、とても観ごたえがありました。