半兵衛

死者にかかってきた電話/恐怖との遭遇の半兵衛のレビュー・感想・評価

3.9
見終わったとき『裏切りのサーカス』と雰囲気が似てるなあと思ったら、原作者が一緒で主人公も同一人物だったのね。ただ登場する役者が豪勢でハイスピードな語り口で展開する『裏切り~』より、徒労感にあふれる現実的なスパイを地味な語り口で全編展開するこの作品の方が好みかも。

見た目こそ渋い中年男性だが、浮気性の妻との関係に悩まされたり諜報部の仕事でもドジを踏んで怪我したりと冴えない主人公ドブスをジェームズ・メイソンが好演。冒頭あることで頭に来たドブスが不倫から帰って来た妻に「またベッドに寝たら?」とブラックなジョークをかますも、しばらくして家に帰ってきたらその事をすぐ謝ったりするなどダメさ加減を絶妙な具合で演じている。

そして主人公が調べる事件の重要参考人を演じるシモーヌ・シニョレ、何の前知識もなくこの映画を見たら往年の美貌が薄れ中年女性らしい体型と顔立ちになった彼女にショックを受けるはず。しかしそんな彼女だからこそ、人生に疲れはてユダヤ人収容施設に入れられていた過去をトラウマとする彼女の演技がリアルに、切実に迫ってくる。

劇中たびたび芝居のシーンが登場し、その場面が主人公など登場人物の感情とクロスするという使い方をしている。特に後半、芝居のシーンがそれを見ているある登場人物の感情と被る場面のエモさは見事なのだが、芝居の場面が結構長いので個人的にはだれてしまったのが残念。あと芝居に関する知識が無いとスリリング感が半減するので見る人を選んでしまうかも。

秘密捜査を展開する人間をリアルに描くというルメット監督の演出は、『プリンス・オブ・シティ』で結実する。
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