ツクヨミ

ガートルード/ゲアトルーズのツクヨミのレビュー・感想・評価

1.8
登場人物の表情を捉える長回し技法を極めすぎて行き着いたドライヤーの作家性到達点。
大臣候補の妻ゲアトルーズは夫との結婚生活に嫌気がさし、ピアニスト青年と逢瀬を重ねる日々。そんな折にゲアトルーズは夫に別れ話を切り出し…
カール・テオドア・ドライヤー監督作品。特集"奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション"にて鑑賞、"奇跡"で顕著だった長回しの多様を突き詰めドライヤー監督の遺作になったのが今作だ。
今作の内容をシンプルに言うならば熟年女性の愛の戸惑いと言うべきか、男たちから愛されるゲアトルーズがいろんな男たちを愛し葛藤する話になっている。これまでドライヤー監督作品を見てきて"人間の葛藤"を視覚的に見ていくことが各作品に共通していると感じていただけに、遺作となった今作のゲアトルーズの愛の葛藤はドライヤー監督の作家性を如実に最後まで描き切ったという解釈ができた。だが作家性を感じることができたのは良いが、今作のストーリーラインは正直退屈としか言えないものであったとも思う。長回しの多様という側面の極地に至った弊害というべきか、作品のペースと内容がのっぺりと遅い印象を受けた。
しかしカメラワークに関しては流石のドライヤー監督、長回しの多様であっても美しいショットを求める気概が感じられる仕様には頬が緩んだ。今作は基本会話劇になっており室内での会話シーンが多い。そのせいか室内での2人の会話ショットが構図的な美しさなのか素晴らしかった。かつて小津安二郎監督はローポジションによる小津調を使い登場人物を動かさずに構図を優先し美しいショットを見せていたが、それに対しドライヤー監督は登場人物の動きに合わせてカメラを動かしその状況に見合ったカメラワークで構図優先ショットを連発していく。やり方は違えど構図を優先した美しいショットを求めたのは違いない、ドライヤー監督は古くはクローズアップから長回しを極め構図優先の美意識ショットを構成するに至った。これがドライヤー監督がたどり着いた境地であったのかもしれない。
内容に関しては退屈としか呼べない代物であったが、最後にたどり着いたドライヤー監督の境地をしっかり認識できたと感じた。ドライヤー監督の作家性である"人間の葛藤を捉える視線"を基本にしてまた彼の作品に挑みたい。
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