囚人13号

ガートルード/ゲアトルーズの囚人13号のレビュー・感想・評価

4.9
神話を現代劇へ翻案してしまう暴挙をゴダールのマリア以前に実践し、何より本作すらまだ野心の途上であったというドライヤーの遥かな意志を汲み取れぬまま観終えてしまった。

確かに視線は交錯を避けられるしゲアトルーズは世界から遠ざかっていくのだが、紛れもなく見つめ合っている公園とラストの二箇所は分かった上で意図的に回収されているとしか思えなくて震える。批評的な憶測を全て上回ってくる神。
常に簡潔な映画的言語へ書き換えられてきたテクストが演劇言葉に呑み込まれていく居心地悪さと回想シーンの異様な白さから遂にドライヤー自身がスクリーンから脱却し、神のもとへ接近しつつあったと知る。

しかし回想場面と同じ眩さの中で演じられている幽玄的なラスト(未来)において、扉が閉じられる直前まで見つめ合っていた男女が切り返しで提示される瞬間に生じる動揺は遺作のラストシーンにキャリアで唯一連続した切り返しを挿入しているという事実に加え、部屋全景を捉えたショットのパースが消失した殆ど二次元(トリックアート)的な垂直線構図によってである。
それは「有機物を排したシンプルさ」などとは全く異質で、何の脈絡もなく突如出現する構成主義的構図に寧ろ戦慄に近いショックを覚えるも映画はそのまま終わってしまう。厳つすぎる。
囚人13号

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