「進化論は聖書への冒涜」としてアメリカ南部で実際に起きた通称“モンキー裁判”を映画化。監督は「ニュールンベルグ裁判」(1961)「招かれざる客」(1967)のスタンリー・クレイマー。主演はスペンサー・トレイシーとフレデリック・マーチ。題名「風の遺産(Inherit the Wind)」は聖書からの引用で「空しい遺産」のような意味。テレビ放送題「聖書への反逆」。
1925年テネシー州の高校。生物教師ケイツ(ディック・ヨーク)がダーウィンの進化論を教えている教室に、神父と警察が押し掛け「聖書に逆らう進化論の授業は州法違反」と逮捕する。この事態はマスコミで大きく報道され、全米注目の進化論裁判が始まる。検事として招聘されたのは大統領候補にもなった保守派の法律家ブレイディ(フレデリック・マーチ)。対するは元ジャーナリストの弁護士ドラモンド(スペンサー・トレイシー)。二人はかつて親友同士だった。“聖書の創造論vs科学的進化論”の行方は。。。
キリスト教の勉強を兼ねて鑑賞。「人間の祖先は猿かどうか」が論点と揶揄された“モンキー裁判”は現代の魔女狩りに例えられ有名である。本作も基本的に聖書原理主義に批判的な立場で描かれているが、テーマは重層的で示唆に富み、聖書と科学、保守主義と自由主義、家族と個人、熱心な信者と融通ある信者、など多義に渡る。製作時期的には赤狩りに対する批判も含まれていると思われる。
台詞の一言一句が興味深く、様々なことを考えさせられた。しっかりレビューするには論文を書くぐらいの気合がなければ難しい。
個人的に注視したのは“対立関係にあって人はいかに対話していけるか”。感情的な物言いを避けたいのはもちろんだが、もうひとつ、個人の感傷をふりかざす論調は対話の可能性を大きく妨げると再認識した。
教師を弁護するドラモンドの論旨は「個人の思考の自由を守るべき」。検事ブレイディの論旨は「親たちが大切に守ってきた価値観を否定していいのか」。そして、登場人物の言い分もそれぞれである。
とりあえず、今回は登場人物たちの思想と立場をメモしておく。
【進化論弁護派】
・弁護士ドラモンド
融通ある信仰者。個人の思考の自由は守られるべき。
・生物教師
子供たちに科学的真理を教えたい。融通ある信仰者。
・教師の婚約者(神父の娘)
教師に謝罪を勧める強めの信仰者だった。
しかし教師に不利な証言をさせられて憤慨し転向。
【進化論否定派】
・検事ブレイディ
建前の宗教原理主義。
神の教えに反する行為は共同体を崩壊させる。
・検事の妻
夫への愛情が最優先。融通ある信仰者。
・神父
強硬な宗教原理主義者。
「進化論は神の否定」と村民たちを扇動
※本作の冒頭に流れるゴスペル歌
「Old-Time Religion(古の宗教)」
その古の宗教を教えてください、
その古の宗教を教えてください
その古の宗教を教えてください
私にはそれで十分です
※本作ラストに流れる歌
「リパブリック賛歌(共和国の戦闘讃歌)」
アメリカの愛国歌。南北戦争での北軍の行軍曲。
Glory, glory, hallelujah! 栄光あれ、栄光あれ、神を称えよ!
Glory, glory, hallelujah! 栄光あれ、栄光あれ、神を称えよ!
Glory, glory, hallelujah! 栄光あれ、栄光あれ、神を称えよ!
His truth is marching on 主の真理は進み続ける
※題名の引用元
旧約聖書「箴言」11章29節
自分の家族を煩わせる者は風を相続し、愚か者は心に知恵のある者のしもべとなる。