ピロシキ

有りがたうさんのピロシキのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
3.6
ありがとうさん。坂田利夫師匠の「ありがとさ〜ん」のほうかと思いきや、Mr. Thank You、なんとイケメンバスドライバーのあだ名のほうだった。東京へ売られていく若い娘たちを送りつづけてきた、ありがとうさん。気を病むあまり、思わず「葬儀の車の運転手になったほうがよっぽど気が楽だ」と漏らす、ありがとうさん。

その底抜けの笑顔に反して、まとうオーラは暗い。まるで本当に、この世とあの世を繋ぐ存在のよう。だってバスが障害物を追い抜く様子は、徹底的に画面に映らないのである。この道幅でそれ追い抜くの無理では?という局面も「ありがとう〜」の一言で追い抜きが完了してしまう。まるで、東京という地獄へ生贄を送り込む、目には見えない透明なバスである。

一方、桑田通子演じる女の、乗客たちや運転手にガンガン話しかけたあげく酒まで煽ってしまうその圧倒的な陽キャっぷりに、ひときわ「生」を感じる。気を確かにしていないと、自分をちゃんと持っていないと、簡単に誰かから潰されてしまう社会。今も昔も、何も変わらないんだ、などと諭された気分になる。
ピロシキ

ピロシキ