青二歳

有りがたうさんの青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

有りがたうさん(1936年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

原作川端康成。清水宏監督。ありがとうが口癖のバス運転手上原謙と乗客を描くヒューマンドラマ。群像劇というほどではないし大したドラマはないが、狭い車内のやりとりと街道で交わされる会話がグッとくる。上原謙がバス運転手なんてイケメン過ぎて浮くだろと思ったら10分もしないうちに美女(桑野通子)に口説かれとる。そして20里の片道だけで老若男女にモテモテ。
温泉街を渡り歩く旅芸人家族、流行歌のレコードを求める村娘、出稼ぎ隧道工夫の少女、まーモテモテ。鈍感でもないようだが…無意識タラシというのだろうか。

ただ映画としては“ありがとうさん”を中心に置いている訳ではなくて、中心にいるのは桑野通子だった。ザ・モガという都会的な格好が似合う美女ですが、結構スレた女を演じてたりもします。流れ者の酌婦で、しばらくこの街道沿いを拠点にして勤めていたらしい。上原謙に絡みつつ、乗客たち(特におヒゲ)をいじり倒す。酌婦という設定も、ほかの乗客や街道沿いの人々と同じように不遇を背負うあわれな境遇の者として置かれているのかと思ったが、どうもそれだけではない。トリックスターに相当するといえば言い過ぎかもしれないが、ひとの機微に気付き得る眼力をもった職として、車内や街道を"見る"存在であり、観客への橋渡しの役目もある。
印象的なのは上原謙の「街道渡世の仁義だよ」という言葉。渡世人が口上を述べたら一宿一飯を提供しなければならない街道筋の家々の仁義、あるいは船乗りの仁義に通じるイメージを持ちました。頼れる者が少ない人間同士、お互いに出来る限りの事をしようじゃないかという、アウトサイダーたちの相互扶助の社会が伺えます。
撮影はこれ本当にバスにカメラ載っけてる感じですね。バスの車高まま(撮影大変そう)。この撮影が音楽と重なってとても良かった。

なお出稼ぎ隧道工夫についてですが、某所で強制連行?労働?みたいな事を言っている方がいました…そ、それは違うでしょう…と目が点に…
トンネル工事(幅3mくらいの隧道が多く作られました)はこの頃農村からの人気出稼ぎ労働でしたので…日本人も多いはずですし、朝鮮からの出稼ぎならおそらく大林組辺りの斡旋かと思います。もちろん彼女が悪徳業者に騙されたりしてないといいですが…
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