この作品の評価がどーのこーのというよりも、ネット等々でこれについてのレビューを見るのがめちゃくちゃ愉快。
「一緒に観に行った人とその後 気まずい雰囲気になってしまいました。」
とか、
「後ろで観ていたカップルの鑑賞後の微妙な空気が気になりました。」
とか(笑)
以上、私の感想なんぞより、そちらの方をご参照あれ。
… というのは冗談で。
まあ、それくらい、難解だということなのだけれど。
しかし、個人的にはピーター・グリーナウェイ作品の中でもとっつきやすい方では?と思う。
なにせ『テンペスト』の独創的な映画化であるし、プロットとしては言わずもがな典型的な復讐劇だ。
ただし、この作品の中に大きな謎は、ある。
オリジナルの『テンペスト』にも少なからず謎が含まれているのだが
一番大きな謎、それは、なぜプロスペローは土壇場になってアロンゾーや弟たちを赦したのか、ということ。
そこのあたりは原作の方でも受け取る側に委ねるようなところはあるし、グリーナウェイ版ではさらにサラッと描いている。
つまり、そこに監督の意図があるような気がして。
つまり、人が人を赦すこと… みたいな、シンプルな道徳の授業のような話しで終わらせたくなかったと。
問題は、もっと深い人間の闇を描くことにあった。
有名なラストの、プロスペローが突然受け手に話しかけ、自分がどうすれば良いのかを拍手で示してくれと問う部分。
ここも本作で忠実に再現して終わっている。
元々、シェークスピア作品は途轍もなく深い人間の闇を描くことに腐心していると感じさせるし、そのあたりがピーター・グリーナウェイと共鳴しているのは明らか。
王妃ユノはファーディナンドとミランダの結婚を“祝”い、
プラスペローはナポリ王アロンゾーやおとうとアントーニオたちを“呪”う。
祝う…と、呪う…は、似ている。