櫻イミト

死んでいるのは誰?の櫻イミトのレビュー・感想・評価

死んでいるのは誰?(1972年製作の映画)
3.5
「赤い影」(1973)に一年先駆けてヴェネツィアが舞台の少女&殺人を描いた、ジャッロの隠れた名作。モリコーネによる児童合唱の劇伴も有名。原題は「Chi l'ha vista morire?(彼女が死ぬのを誰が見た?)」。

スキー場で少女が黒いベールの何者かに惨殺される・・・。ベネチアに住む彫刻家フランコの家へ、別居中の妻の元で暮らす幼い娘ロベルタ(ニコレッタ・エルミ)が遊びに来る。親友の新聞記者クーマン、羽振りの良いピーター、教会のジェームズ牧師、そして裕福な画商セラフィアンらに娘を紹介するフランコ。そんな中、娘ロベルタを物陰から見つめる黒いベールの老婦人の姿があった。。。

閣下殿のご紹介で鑑賞。

まずはヴェネチアのロケーションがムード抜群で素晴らしい。アルド・ラド監督がヴェネチア出身との事で市街地から裏町まで街中でロケされている。

冒頭、モリコーネの不気味カワイイ児童合唱が流れる中、ベール越しの主観ショットが用いられ期待が高まる。その後も“イタリアの怪奇少女”ことニコレッタ・エルミが登場している間は撮影・演出ともテンションをキープし傑作の予感。なのだが、登場人物が多すぎて後半に進むにつれシナリオ演出が路頭に迷いややこしくなってていく。

ジャッロ映画のファンであればこの複雑さが定番の魅力かもしれないが、一般層から見たらややこしすぎて少々辟易すると思う。映画館前方席での殺人も他ジャンルではありえない設定だろう。

個人的にはフルチ監督の前年作「マッキラー」(1972)を観たばかりだったので何となく犯人に目星を付けていた。果たして、同作と比べてしまうと犯人の心理や動機の描写が浅いことも物足りなく感じてしまった。

調べたところ、アルド・ラド監督はベルトルッチ監督の助監督出身であり、脚本フランチェスコ・バリーは同監督「革命前夜」(1964)で主役を演じていたとの事。実は本作のスタッフの多くはベルトルッチ監督を中心とした新イタリア派(反体制革命派の若手映像作家たち)の面々なのだそう。とすると、犯罪心理描写よりもブルジョア&教会の批判に重きを置いたのは彼らの信念であり個性なのだと受け取れる。

一方、父親の心理描写として娘と妻のフラッシュバックが繰り返し用いられていた。観ている時はその意味をいまひとつ読み解けなかったのだが、欲望先行でブルジョア寄りに傾いていた彼自身の総括への過程を表現したのかもしれない。

ヴェネチアロケとモリコーネ劇伴でムードを高めつつ、弱者の傷みを描き反体制的ルサンチマンの醸成を試みた革命的なジャッロ。監督が後に手掛ける「暴行列車」(1975)も同種の匂いがする。
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