葛西ロボ

百万の眼を持つ刺客の葛西ロボのレビュー・感想・評価

百万の眼を持つ刺客(1955年製作の映画)
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 中古屋でジャケ買いしました。ここではNo imageですがパッケージでは目のたくさんある世にもおぞましい風貌をした怪物に半裸の女性が襲われています。その下に「THE BEAST WITH 1,000,000 EYES!」というタイトル。もう傑作の予感しかしない。
 オープニングも無駄にセンスがあって、本当は全然そんなつもりなかったのに変に期待を持たされる。そしていきなり宇宙人(と思しき目)が語ることには、我々はまだ力が弱くて人間は操れないが、他の生き物たちを洗脳して、少しずついびってやる。百万の眼がお前たちを見ているのだ!と。なるほど。タイトルはそういう意味なのか納得、っていや待てじゃあジャケットの目がいっぱいある怪物はなんなの!?
 不安しかないプロローグ。しかし、物語が始まると、その設定にまた惹きつけられる。農夫である主人公のプランテーションに砂漠化の波が迫り、彼ら夫妻は娘の将来に頭を悩ませ、敷地内の小屋には謎の男が棲みついている。謎の男はともかく、この設定最近どこかで見た覚えありませんか? そう、「インターステラー」ですよ!(本気)さかのぼること60年、ここにも砂と娘の将来に悩まされるSFが!そして最終的には愛が人類を救うんです!すごいものを見つけてしまった。
 序盤から次々に開かれる引き出しの数々。隣の心優しい引きこもり男は「アラバマ物語」、人間に襲いかかる鳥はヒッチコックの「鳥」、宇宙人に寄生された犬は「遊星からの物体X」を彷彿とさせる。もちろん本作の方が公開年は先だ。この映画からのちの名作たちが生まれたと言っても過言ではない!というのは完全に盛ってるけど。
 監督は無名だが、制作はあの名高きロジャー・コーマン(納得)。牛に襲われる農夫役にはチャップリン映画でおなじみのチェスター・コンクリン。あの「独裁者」でブラームスに合わせた髭剃りをした人です。

※ここからネタバレを含みます。

 砂漠に墜落した宇宙人は怪しげな電波を発信し、冒頭の宣言通り家畜や鳥を操って人間たちを襲わせるのだが……まずこの襲撃シーンがゆるいのなんの。動物に演技をさせるのが難しいのはあるが、牛が歩いているカットと人間が逃げるカットを交互に見せられて、最後にドテーンと牛の近くで倒れるとかコントか何かか? 鳥が襲ってくるシーンも全部ワンカットの使いまわし。奥さんは取り乱してるけど、犬はただ家に入りたがっているようにしか見えない。
 だいたい電波の範囲が身近すぎるだろ。本当にこれで地球を支配しようと思っているのか。今は力が弱いにしても、この映画で描かれている範囲だと、あまりにも出鼻をくじかれた形になって情けなさすぎるぞ。
 まあ、いろいろと再現する予算や技術が無いだけであって、1955年にこれをやろうとしたこと自体はチャレンジとして認められてもいいと思うけど。設定はがばがばでも、アイデア自体は悪くない。ただ、そのアイデア1本だけで撮っちゃうところがB級たる所以か。
 正体不明の怪電波と動物たちの異常行動。人間たちはこの危機をどのように乗り切って、反撃を繰り出すのか? と考えていたらいきなり主人公と不仲だった妻が「あなたと一緒にいるとなんだか安心するわ」とか言い出す。ん? まあ、人との触れ合いが心を落ち着かせるのは生理学的にも……と思うが、どうやら違うらしい。身を寄せ合うこと。それこそが洗脳に対抗する手段なのだ!その根源はつまるところ愛の力である。
 でも、それがわかったところでどうするのか。最後まで見るとびっくりするんですけど、本当にそれだけで突き通すんですよ。敵と対峙しても自信満々に「一緒に戦えば勝てる。それだけ覚えておいてくれ。一緒に戦えば勝てる!」って。根本的な解決になってない気がするんだが。とにかく近くにいればいいらしい。妻も「ダメよ、あいつ強いわ」とか言うけど、どこらへんでその強さを感じ取って、それに対抗しようとしているのか、見ている側には一切伝わってこない。
 この映画、「よくわからないけど、そんな気がする」って感じの身もふたもない台詞が多いんですけど、それが終盤になると「よくわからないけど、そうに違いない」って確信に変わるんですよ。なんで無駄に自信だけついてんだよ。それも愛の力か。
 宇宙人もそのしぶとさに手こずったのか、いつの間にか目的が変わって、娘を連れ去るとか言い出すんだけど、そのUFO小さすぎるだろ入んねえよ。
 ちなみに人間は操れないはずなのに敷地内に棲みついたひきこもり男は見事に操られていました。男の知能は動物並ってことか。そしてその正体に関しては特に聞いてもいないところで主人公が取り急ぎ明かすんですが、なんで家族に黙ってたのかまったく理解できません。
 近づけば敵も本領発揮してくるだろうが、俺達も強くなるかもしれないという謎理論(マジで意味がわからん)でUFOににじり寄る主人公たち。すると宇宙人もこうなったら仕方がないとUFOのハッチを開く。中から出てきたのはそう、待ってました!なんかちょっと違うけどパッケージの怪物!クライマックスを盛り上げるべく、ライフルを構える主人公に飛びかか……ん!?……んんん!!!!!!!!?????????
 まさかまさかの衝撃的すぎる展開。
 ここに至っても親切に台詞で説明してくれて、なるほどと納得はするんですけど、この最後のあたりはもう笑うしかない怒涛の展開が続きます。規模はどんどん卑小になっていく気はするが、妙に理に適っていて面白いといえば面白いです。
 何はともあれ人類は勝利した。孤独な人間なんて一人もいない!みんな誰かと繋がってる!それが愛だ!!!!!最後まできっちり台詞で説明してくれる。「インターステラー」顔負けの愛が人類を救うストーリー。何がすごいってこの家族、UFOににじり寄る以外は特に何もしていない。すべては神のまにまに。

 スコアは付けていないわけではなく、一応右にスライドさせてはみたものの1.0に届かなかっただけです。
 好きな人には堪らないと思います。