くもすけ

ウディ・アレンのザ・フロントのくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

アレンが監督しない数少ない主演映画。製作はジョフィ・ローリンズで一見するといつものアレン映画のよう。ただ明確なギャグ演出はなく、通りの向かいから葬儀じっと見つめ、含みなしの悪態で立ち去るシリアスなアレンが新鮮。むしゃぶりつくようなキスは健在だが、いつものかぶりをふる演技が映画からはみ出そうとしているみたい。同じくコメディアンのモステルのほうは全身これ芸人。

■ゼロ・モステル
ゼロ・モステルはコメディアンとしてキャリアを始めるもリストに挙げられる。51年カザンに招かれ映画に復帰。HUACの召喚を受けるが、思想についての質問には答えず名前も挙げず、フォックスを "18th Century Fox"と蔑み、結局リストからは外れないまま50年代は不遇のまま過ごす。このくだりが、ラストシーンに反映されているのか。
57年赤狩りに反対していたNYの劇場に抜擢されたのを皮切りに舞台で復活を遂げる。映画は「プロデューサーズ」「ウォーターシップダウンのうさぎたち」などえぐ味のある作品が目を引くが、気安いコメディにも出てるもよう。

モステル演じるヘッキーのモデルはモステルとも交流のあった役者Philip Loebだそうな。リストに挙げられ鬱に陥り、1955年服毒自殺を遂げている。
アレンがフロント務める3人のモデルはバーンスタイン、ポロンスキー、Arnold Manoffを混ぜたようだ。
赤狩り組が多数出演してる。小ネタだが、モステルがキャッツキルのショーのあとで支払いを値切られるとき横にいるのはジョン・ガーフィールの娘ジュリー。赤狩り全般は「レッドパージハリウッド」が詳しい。

■バーンスタインと仲間たち
映画の舞台は1953年。映画冒頭ニューズリールが流れる。スターリン死去、東ベルリンデモ、ローゼンバーグ夫妻処刑、ソ連水爆保有、朝鮮戦争休戦、モンローウォーク。主題歌のヤング・アット・ハートもこの年発表された曲。

脚本書いたのはウォルター・バーンスタイン。
47年オール・ザ・キングスメンのシナリオに参加しキャリアスタート。リストで放逐されテレビへ移り、フロントを立てて活動を始める。CBSでリット製作の戦争ドラマなどにシナリオを書いてしのぎ、1959CBSつながりでルメットの映画で実名復帰する。50年代のCBSについてはグッドナイト&グッドラックが参考になる。
1961旧知の仲だったリットとParis Bluesで組み、「モリーマグワイヤズ」など提供。仕事がないときにはリットのソファで寝ていたらしいが、ふたりとのコンビは本作が最後。
本作の翌1977年「アニー・ホール」からアレンは地元で撮り始めるが、バーンスタインがカメオ出演してるらしい

批評は割れたようだ。ケイルはアレンの演技を称賛し、エバートはユダヤファンタジーアドベンチャー、と下げる。同年公開「マラソンマン」と真逆の構図か。
1975年はHUACが廃止されトランボがアカデミーと和解し、翌年Hollywood on Trialというハリウッドの赤狩りに取材したドキュメンタリーが作られる。ただ聡明なアレンがこの流行りに安安と準ずるはずもなく「カメレオンマン」で本作に通じる系譜を爬虫類につなげる