よしまる

鏡の中にある如くのよしまるのレビュー・感想・評価

鏡の中にある如く(1961年製作の映画)
4.0
 スウェーデンの人たちが夏になると訪れるサマーハウス。1ヶ月も住処を変えるなんて日本人には到底あり得ない休暇だけれど、あちらでは当たり前。あー休みたいw

 と、いうボヤキはさておいて、小説家の父と、娘とその夫、そして息子。
 画面上に現れるのはたったの4人。舞台もそのサマーハウスがあるフォーレ島のみで展開される。この映画の後にベルイマン自身この島で何十年も暮らすことになる、世界で一番美しい場所の一つ。
 あー、一度は訪れてみたいw

 そんな小さな島の小さな家族の物語であるにもかかわらず、重く、ハードな出来事がコンパクトに展開する。
 美しい映像と人間の内面世界が絶妙なコントラストで描かれる、さすがベルイマンと唸るしかない演出が大渋滞。そしてその渋滞の根本にはやはり「神」の存在が。

 作家である主人公は、神を題材にした本を書いていることをほのめかしながら自答する。
「小説で神を扱っても信仰も迷いもただの道具であり、創作に利用しているだけだ」
「空々しいことばも巧みに語れば真理に見える」

 「神の不在」「神の沈黙」3部作と言われる本作。日本人には馴染みのないキリスト教のGODが「何もしてくれない」「答えてくれない」からといって別に悩むようなことでもないし、その絶望感などわかるはずもない。
 ただ、わからないなりにもこの壊れかけた家族の悲壮感、互いを愛するがゆえに行き違えたり、自分を責めたりするリアルさは痛いほど伝わってくる。ただ一人正論を吐き続けるマックスフォンシドーのいやらしさ、性の衝動を歪に抱え込んでしまう弟の驚愕の行動など、キミたち神を前にして赤裸々すぎんか!?という有り様だ。

 最近日本でも「ドライブマイカー」が受賞したアカデミー外国語映画賞には、このとき前年に続きベルイマン作品が2年連続で輝いており、キリスト教の根付いたアメリカにとっても衝撃を持って迎えられたに違いない。ちなみにこの年の作品賞は「ウエストサイド物語」。映画は世界中で作られており、お国が違えば作風もテーマも変わる。けれども、美しい風景や人間の深層を観て楽しめるのは同じ。
 ベルイマンの描く「哀しい人たち」に寄り添ってじーんとするのもまた映画の醍醐味だ。神なんていなくても、愛があれば。