ちろる

鏡の中にある如くのちろるのレビュー・感想・評価

鏡の中にある如く(1961年製作の映画)
4.2
芸術の亡霊に取り憑かれたベルイマン自身の自己肯定作品。だからこそ面白い。

ベルイマンは自分の監督した作品の女優に手をつけては孕ませ、また新しい女優に出会ったらまた孕ませを繰り返し生涯5回?ほど再婚してるみたいなんだけど、その中の1人を精神病にしちゃったらしいです。
(ちなみにこのベルイマン作品によく出るカーリンという名前はベルイマンの母親の名前ですが、母親も父の暴力で精神を病んでた時期もあるので、いろいろとこの作品は自分の生い立ち重ねてる作品でもあります。)
おそらくこの作品で統合失調症を患った娘カーリンのモデルは奥さんで、そんな娘を小説のネタにしようとした鬼畜な父親ダヴィッドはベルイマン自身なのでしょう。

「あなたには感情もない。人並みの節度もない。」
とカーリンの夫が義父に投げかける言葉も本当はベルイマン自身が誰かに投げかけられたのかもしれない。
人間としての倫理観を葬ったとしても、外側にアウトプットしたい欲望の方が上に立つ芸術家の貪欲さをこんな形でそれらしく正当化するように描かれても、やっぱりこの作品を作ってアカデミー賞受賞しちゃうベルイマンは人間としては✖︎
ただ、芸術家ってそれくらいクズでないとだめなんだとも同時に思う。
ちなみにこちらの作品もほかの作品と同じく「神の不在」を描いているのだけど、病状が悪化するほどに神に心酔するカーリンの姿は闇そのものであり、神に導かれたといって弟を抱きしめる船のシーンとその外側で響く汽笛の音は不気味で、そのカーリンが神に取り込まれる悲惨な姿はまるで神の存在を嘲笑うようにも感じてしまう。

神とは愛であると、なんとなしに上手くまとめようとしているのだけど結局はこの「鏡の中にある如く」、鏡のように自己投影させてなんとか吐き出したものなのかもしれませんね。
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