とうじ

たぶん悪魔がのとうじのレビュー・感想・評価

たぶん悪魔が(1977年製作の映画)
5.0
世の中に対する知識を増やしたり、それについて考えたりすることは、非常に危険なことだと思う。
しかし、その欲には抗えないのがほとんどの人間であり、よっぽどの馬鹿か子供しか、世界を盲目で無垢な精神性で生きることはできない。

その真理に対して、息苦しさを感じてしまった主人公の日常を淡々と描く本作は、見ていてすごく居心地が悪くなる。
作中に、水俣病の奇形児、森林伐採、タンカー事故、原爆実験などのドキュメンタリー映像が挿入されて、主人公と共に、観客の脳内に浮かび上がるのは、「資本主義」という「幸せ」や「生きがい」とは関係なくどんどん欲のおもむくまま駆動する巨大な怪物の有害な息吹のイメージである。

そして、それを吸いこんでしか生きていけない人々。それから解放されるには自殺をするしかないが、それに至るのは、少なくとも主人公は、命があまりにも惜しすぎる。

そんな主人公が薬物使用、窃盗、宗教活動、セックス、精神科でのセラピー、警察での事情聴取などを通して、ある決断をするまでに至り、それが実行されるまでを、本当に淡々と、どうでもいいように映す。どうでも良すぎて、本作はすでに、序盤で主人公についての新聞記事をテロップで映し出し、彼の末路の内容を明かしてしまう。

ブレッソンの冷然とした形式主義が、主人公の苦しみと悲しみを圧迫する。しかし、そういうミニマルな視線だからこそ、主人公の無音で轟く慟哭を、そしてそれを無音たらしめているものを捉えることができる。
本作はそういう意味で、最も残酷な映画の一つだと思う。
とうじ

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