イライライジャ

血のイライライジャのレビュー・感想・評価

(1989年製作の映画)
4.3
全ショットが寸の狂いもなく人間味を感じないほど完璧。陰影の使い方にはドキドキすらする。ペドロ・コスタ、光と影を操る魔術師なのでは…。

冒頭、暗闇が続き開幕ビンタ。父子であることを示唆するが本作は登場人物の説明など一切ない。一体何を見つめているのか、一体どこに向かっているのか、何も語られない。兄弟は血の繋がりこそあるが、会話しても切り返しのショットすらなく、タイトルの“血”が意味するものが浮き彫りになる。

婚約者のクララが暗闇からヌルッと現れる謎のカーニバルデートが凄く良い。ぼんやりと照らされるライトに虚ろに踊る人々の画は、夢見心地とも悪夢的とも取れる。闇夜を歩く男女に光がユラユラと反射し、死体が引き上げられる。2人は共犯者であり、死体が埋まった地で愛し合う。
そして何も知らない弟は、“血”のバカバカしさに気付き、人生を進み出す。

顔の上で揺れ動く影で人物の心情を語らずとも表現してる。影への見事なこだわり。
いやあ、あまりに傑作。これが処女作だなんて凄いとしか言いようがない。