青山

翼のない天使の青山のレビュー・感想・評価

翼のない天使(1998年製作の映画)
3.8
シャマラン補完計画 その4くらい。

「シックス・センス」以前に製作されたシャマラン作品で唯一現在普通に観られる作品です。「Praying with Anger」という大学時代に撮った作品が一瞬だけ劇場公開もされた商業デビュー作らしいですが、こちらは少なくとも日本には来てないみたいです。

主人公はカトリック系の小学校に通う少年。大好きだった祖父を亡くした彼は、祖父がよく話していた「神様」を探すことを決意します。祖父が天国で元気に暮らしているかを聞くために。そして、そんな神様探しのミッションを通して、彼が友達や気になる女の子と過ごす日常を描いたお話です。

さて、この作品には後に(不幸にも?)シャマランの代名詞となる「どんでん返し」はありません。その分、素材本来の味が楽しめる通好みの作品になっています。

素材本来の味というのはやはり、主人公の少年をはじめとするキャラクターたちの人柄の良さでしょうか。

私がシャマラン作品で好きなところの一つが、「ただの悪人が出てこない」ところです。彼が描く人々は他人のために心を痛められる優しさを持っています。悪役として登場する人物でも、きちんとそうなってしまった同情できる理由が描かれていて、本当に憎むべき悪人はほとんど出てきた覚えがありません。
そして、そんな優しい作風の原点がこの作品にはあるのです。
主人公の少年は、天国の祖父のために神様を探します。失敗ばかりしているどんくさい友達を慰めます。自分をいじめた子にも手を差し出します。

また、友達関係とは別に、この作品は少年の初恋のお話でもあるのです。なんと贅沢!
雑誌(いかがわしいやつ)でしか女を知らず、女になんか興味なかった主人公が Meets Girl ずっきゅんしちゃうところがほんとに可愛くて。「雑誌の女の子より可愛い」、名(迷)言です。この幼くもしっかりして純粋な恋の行方を応援したくなっちゃいますね。

そして、そんな主人公への贈り物のような、静かな多幸感の溢れるラストが実に爽やかです。原題と全く違う邦題ですが、ラストまで観るとじわじわと「翼のない天使」というタイトルが沁みてきます。
そこから監督名がドヤ顔で映し出されるあたりも作風が確立されていると言うべきでしょう。

デビュー作にはその作家の全てが宿ると言いますが、この作品も(厳密にはデビュー作じゃないしどんでん返しだけないけど)シャマランのほぼ全てが詰まった傑作と言っていいでしょう。
青山

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