佐藤克巳

風の中の牝鷄の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

風の中の牝鷄(1948年製作の映画)
5.0
ラヴストーリー「第七天国」に匹敵する感銘を受けた夫婦愛を描いた小津安二郎監督の比類の無い傑作。夫佐野周二の帰還を待つ田中絹代は、生活費にも事欠く中子供中川秀人が大腸カタルで入院、看護婦から十日分前払いを要求され月島の売春宿で体を売る。子供が退院下宿先に帰ると、佐野が帰還、田中に四年間の内情を聞くと正直に告白し夫婦関係は悪化した。佐野は、翌日売春宿に出掛け若い娼婦文谷千代子と語らい就職の世話までした。久しぶりに帰ると田中と口論になり、弾みで突き飛ばすと梯子段を転落した。必死に這い上がる田中に不寛容だった自分を恥じ、お互いこの事実を忘れて再出発しようと呼び掛け抱き合うのだった。石油タンクが前面に見える復興途上の下町の一コマ一コマが美しくもあり、物哀しくもある風景描写が絶品だ。
佐藤克巳

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