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ジンジャー スナップスのEikeのレビュー・感想・評価

ジンジャー スナップス(2000年製作の映画)
3.1
2000年公開の異色の「女性版人狼ホラー」。

所謂「ウェアウルフ・テーマ」の低予算ホラー作ですがカナダ産ということもあって趣向が異なっていて新鮮な印象です。
すでに20年以上前の作品という事になりますが欧米のホラーファンには強い印象を残したようで何本かシリーズ化もされております。

この人気の理由はやはり本作が女性視点からホラーを構築することに成功した点が挙げられるでしょう。
監督は男性ですが、脚本は女性(カレン・ワルトン)が担当しており、彼女曰く本作はホラー映画で描写される女性像のステレオタイプを払しょくする事を念頭に作った物語だそうです。

確かに本作のヒロインたちは従来のパターンに従って惨劇の被害者であるだけであるもののそれだけでなく、惨劇を引き起こす側の中心でもあります。
また得てしてホラーはエロスの隠喩でもある訳ですが主人公の姉妹を10代後半の「女性」にすることで第2次性徴期を迎え、心身共に大きな変化を迎えつつある彼女たちのアイデンティティが揺れ動く様をウェアウルフの変容とシンクロさせる展開は新鮮でした。
この前半から中盤にかけての部分は青春ドラマとホラーのバランスのとり方が巧妙で中々にクレバーな出来だと思います。
主人公の姉妹、ジンジャー(姉)とイサベル(妹)はクラスの中で浮いた存在のゴスッ娘(もう死語ですね)たち。
死や破壊への嗜好をある種のバリアとして自分たちだけの安全な世界を作り上げている様などもホラーのお膳立てとしては効果的だと思いました。

人狼の呪いを受けたジンジャーが次第に変容し、根暗女子から開放的かつセクシーで魅力的な女性へと脱皮してゆくあたりもお約束ですが良く出来ております。
その変容によってイサベルとの関係が(幼さの残る姉妹関係から成熟した女性同士の関係へ)変化することで両者の間の心理的な葛藤が高まる様もドラマ面では説得力もあって見応えがあります。

ただし娯楽映画として結末はあくまでB級ホラーとして終結させなければならない訳で、その点に関しては前半の人物像の膨らませ方や新鮮な切り口で広げた風呂敷の畳み方はお世辞にも満足のゆく出来にはなっておらず、少々残念。
「解毒薬」を巡るホラー展開の中途半端さや人狼化するジンジャーとイサベルの心理的な対立の結末もちょっとチグハグしたままで終わった気がします。

それでも10代後半の少女たちを主人公に据え、女性視点からホラーを構築し得たことはやはり異色でこの切り口がとても新鮮に映ったのは事実です。
その点に関して言えば今の視点から見ても十分に魅力的な設定と言えます。
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