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北北西に進路を取れのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

北北西に進路を取れ(1959年製作の映画)
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どうしてこんなにおもしろいんだ。
ケイリー・グラントと彼の秘書を引っ張って撮影している最初の方の長回し、外に出てからタクシーに乗るまでの長回しは、楽しかった。ずっと人が画面の中に溢れている。NYの騒々しさが伝わってきた。

グラントがレストランの席を立って移動するのを引っ張って撮影し、廊下に出たところで男2人がフレームインしてくるが、その入り方がスムーズでかっこいい。

ヒッチコックの車内の固定ショットは印象に残ることが多い。

クロスカッティングがサスペンスを際立たせていて最高だった。特にクライマックス直前の、敵が女性スパイの存在に気づく過程を、敵2人のアクション、それを窃視するグラント、全く気づかずに2階で準備している女性スパイ(彼女はまたグラントに窃視されてもいる)の3者をないまぜにしながら描いているところ。
クライマックスのマウント・ラシュモアでのチェイスは、大統領の顔によじ登っているがために、大統領の顔がクロース・アップされすぎて誰が誰だかわからない。わからないからチェイスをしている3人の位置関係が有耶無耶になってしまうが故のハラハラ感みたいなものがあった。
砂漠のシーンは異様だった。主体と客体の往復と双方のアクションが平行線である感じ。刺客かいるはずのない男かのどちらかが車に乗ってやってきたかと思えば、ミスリード。シークェンスは視線の往復を描いているのにそれがアクションとして絡み合うことはなく、静けさのうちに返されているのは不気味に思えた。

母親と一緒に捜査するというのは、確かに去勢されていない男性を思わせる。
フィルム・ノワールとかとは違って男性が自身の全体性を取り戻す話ではなく、徹底的に社会化されていくのがおもしろい。一見グラントは、一度は自分を裏切った女性を手に入れることで、彼自身の全体性を取り戻したかのように見えるが、実際は女性の背後にいる男性たち(CIA)の要求に徹底して応え、彼らに尽くしたから、意中の女性を手に入れたのであって、グラント自身が自律したわけではない。そのファルスを貫きたいのに、貫けない、貫けているようでへし折られている感じがいい。
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