KnightsofOdessa

ペパーミント・フラッペのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ペパーミント・フラッペ(1967年製作の映画)
4.5
[西側諸国への消えない憧れと愛国心、或いはブニュエル的倒錯世界] 90点

イギリスの雑誌に載ったモデルたち足を切り抜いて貼るという変態的かつ西欧諸国への羨望が爆発したオープニングから既に激烈に病んでいるカルロス・サウラの長編四作目。禿げ上がった頭を擦る中年放射線技師フリアンは、長年の親友パブロと久方ぶりの再会を果たし、彼が結婚すると聴いて驚く。アフリカで出会ったというエレナは、カランダで一目惚れしたあの女性にそっくりだったのだ!一瞬にして虜になったフリアンは彼女を地元の案内に連れ出して猛アタックするが、全く届かない。そりゃそうだ。一緒に美容室に入った隙に、彼女が置いていったバッグを漁り、入っていた付けまつげをビクビクしながらも優しく撫でる変態性は何物にも代えがたい。

ある日、フリアンは助手のアンナがエレナに似ていると気が付き、彼女をエレナっぽくしようとする。製作当時はフランコ将軍率いるファシスト政権下であり、その中で息苦しく暮らすスペイン人が潜在的にイギリスを含めた西側諸国に憧れを持っていたことを示している。英語を話し、異国の地からやって来た金髪美女エレナ=理想の国から来た理想の人を、昔惚れた女=過去に思い描いた理想と重ね合わせ、アンナ=今のスペインをそれに添わせようとする。足はこれくらい細くないといけない、目はこれくらいメイクしないといけない、スカートもっと短くしないといけない。そう言って彼女をボート漕ぎ練習用台に乗せ、"汗かいたら風呂が一番!"と言って風呂に入らせる。ここまでアレゴリックに変態的だと逆に許せてくる。足に執着しているシーンも多く、そもそも主人公が変態おじさんというのは完全にルイス・ブニュエルの諸作を思い起こさせるが、本人も"師匠ブニュエルに敬意を表して"と言っているし、最後に"ルイス・ブニュエルへ"と書いているので、意識的にブニュエル的な変態おじさんに社会を代表させて寓話を語る手法を借りているのだろう。

アンナがエレナに近付くほど、エレナへの思いが募っていき、遂には告白まがいの発言までしてしまう。しかし、エレナが振り向くはずもなく、逆に無理して近づこうとするフリアンを嘲り始める。これに反発したフリアンは、ささやかな(?)復讐として彼らを別荘に招待し、睡眠薬を飲ませて車に乗せ、崖から落とした。すると、別荘にはアンナが到着しており、彼女こそがカランダで一目惚れした女性だったというオチが付く。諸先進国への羨望は、彼らへの同化を蔑まれたことによる怒りと愛国心によって脆くも崩れ去った。

ちなみに、ブニュエルはカランダ出身とのこと。
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