櫻イミト

人間ピラミッドの櫻イミトのレビュー・感想・評価

人間ピラミッド(1961年製作の映画)
4.5
ヌーヴェル・ヴァーグ期にシネマ・ヴァリテ(真実の映画)を提唱したジャン・ルーシュ監督の代表作。当時フランス植民地下にあった西アフリカ・コートジボワールの学校に勤めていたルーシュ監督が、同じ高校に通う白人と黒人各グループの生徒たちと制作した実験的青春映画。「人間ピラミッド」とは劇中で引用されるシュルレアリスム詩人ポール・エリュアールの詩の題名。

【物語】
1959年、首都アビジャンの高校にフランス本国からの転入女子ナディーヌがやってきた。学校では白人と黒人が同じクラスに通っているが差別意識から互いに口を聞かず分断していた。ナディーヌは白人生徒たちに、黒人生徒をパーティーに招待しようと提案する。結果、最初は互いのグループ内で拒否反応があったものの、両者男女5人ずつ計10人でパーティが開かれた。これを機に次第に打ち解け合う両者だったが、誰にでも優しいナディーヌを巡って恋愛沙汰の対立が起こる。一方、本作のラッシュを映写室で観ている出演高校生たちは、映画の虚構内で発生した問題点について熱い討論を始める。。。

佐藤忠男さんの映画本で紹介されていてずっと観たかった一本。ディスカッション映画なので日本語版DVDをプレミア価格で購入。

割と高かったため面白くてホッとした。脚本設定をベースに即興で自由演技を取り入れる映画は後の羽仁進監督「午前中の時間割り」(1972)や寺山修司の映画で馴染んでいるのでその手法自体には今さら驚きはないが、人種差別のさ中にある高校で白人と黒人生徒の友情の芽生えを描くという試みは実に挑戦的で感心した。結果、撮影前は口も聞かなかった両人種の生徒たちが実際の親友になったというメタ展開も心温まる。自殺者を出した恋愛リアリティーショーとは志が真逆である。

激動の社会状況下を生きる高校生たちの真摯なまなざしに心を撃たれた。差別問題を語り合う真剣な顔も、皆で歌う時の楽しそうな笑顔も、若い彼らから滲み出る表情はドキュメンタリーでありシネマ・ヴァリテの長所が活きていた。映画の中盤、本作の題名となった「人間ピラミッド」の詩の朗読を10人が共に聞き入るシーンでは、人種など関係なく感動を共有しているのが伝わってきて思わず感涙した。

本作の2年後にコートジボワールはフランスから独立した。まさに時代の変わり目の青春を記録した本作だが、そのテーマ「分断の克服」は現代もなお普遍性を持っている。映画の最後に出演した黒人高校生がアフリカのことわざを紹介する。「相手の長所を知るのはただの社交。相手の欠点を知るのが愛」。深く厳しい真理に共感した。
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